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「なに忘れ物したの?」
「今日使ってたノート…」
「つか夜の学校こええな」
「おー。なんか出そう」

トイレならあっちだぞ、馬鹿か出る違いだわ。
井上と町田のお笑いコンビはほっておいて、チロと架月はさりげなく二人を前に歩かせてちらちらと後ろを注意しながら話す。

先に職員室には寄って鍵は取っておいたので、今は教室に向かっている最中である。
職員室は食堂の近くにあるのでまだ賑やかだけれど、教室は本当に暗くて怖い。
廊下にところどころある非常口の明かりや、消火器の赤い光がまた怖い。

「チロ、ダッシュだダッシュ!」

Sクラスに着いてから鍵を開けて中に入る。井上に電気をつけてもらい、チロの席である教卓前の机にダッシュで駆け寄る。中を覗き込むと探していたノートがあってほっと一息つく。

「あったかー、チロー」
「うん!」

そかそか、よかった。と笑う井上にチロも笑い返すと、そのまま教室を出て鍵を閉めた。

「まじ俺夜の学校とか無理だから」
「でも肝試しとかしてーな」
「いいねそれ!夏休みやろーよ!みんな帰省中のときなら大丈夫でしょ」
「「えっ!?」」

さっきまでチロと同じように怖がっていた井上と架月がノリノリで話し始める。
町田とチロは顔を見合わせ、二人の意見の代わり映えの速さに驚きの声を上げた。
階段を下りて職員室に鍵を返そうと、まるで恐怖を誤魔化すかのように大きな声でおしゃべりすると、あっという間に目的地に着いた。

無事職員室に鍵を返し、さあ帰ろうとしたとき。
コツコツコツ、と自分たちではない響く靴音と、人影が奥から現れる。
一瞬声を上げそうになったが、それが自分たちの見知った人物だと知って息を吐く。

「なにやってんだお前ら」

呆れ顔の黒崎が立っていた。
4人はきわめて冷静というように努めたが、無意識のうちにチロは町田を、架月は井上に抱きつき、町田と井上もひしと二人を抱きしめていたのでびびっていることは明白である。

「…お前が抱きつくのはこっちだろ」

その光景に眉をひそめた黒崎は、チロを町田から引き離すと自分の胸に閉じ込めた。

「仲間入れてー」
「僕真ん中ね!」
「くろやんかー…ちょっとびびっちまったぜ」

あぶれた町田が架月の右隣に行く。
チロは黒崎に抱きしめられ、さっきとは違ったどきどきに胸を高鳴らせていた。

「の、ノート忘れちゃって…」
「…相変わらずドジだな」
「むっ!」

二人の世界に入った黒崎とチロに生暖かい目線を送ると、3人は空気を読んでそのままこっそりと帰宅した。


残された二人は、とりあえず黒崎はチロの小さな手をぎゅうとさりげなく恋人繋ぎで握り歩き始める。
町田と抱き合っていたことに嫉妬をしたことも理由の一つだが、生粋のいじめっこの黒崎は、雰囲気のある声で自作の七不思議を語りチロを半泣きにさせる。そして散々怖い話をして、とどめに「この話聞いたやつは寝てる時にそいつが来るらしいぜ」という呪いの言葉をつぶやくと、とうとうチロが大泣きをする。
あーもう素直で可愛いなあと泣いてるチロをよそににやけながら、

「こんなんじゃ一人じゃ寝れねえだろ?」
「う、うえ、ひく」
「仕方ねえなあ」

そして作戦通り自分の部屋に連れ込むことに成功した黒崎は、放課後チロに触れれなかった分を埋めるようにキスをするのだった。


end



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