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それから二人ごろごろとベッドの上に寝ながら、わあわあはしゃいだり、笑いあったりして、チロは病み上がりとは思えないほどの元気っぷりだった。黒崎もいつものように(可愛いなこいつ)とでれでれとしながら、じゃれ合うチロを微笑ましいとは言えないような邪な目を持って可愛がっていた。

騒ぐのをやめ、今度は静かに二人は横になった。
黒崎は胸の中に小さなチロを抱きしめながら、ぽんぽん、と優しいリズムでゆっくりと背中をなでる。
その心地よさに目を閉じながら、チロはぽつりと今日風邪を引いて、黒崎の部屋に一人になったとき、思った気持ちを語り出す。

「教室でね、センセに触られたとき、」
「うん」
「ぼわあって、体があっつくなって。熱出てるからかなあって思ったけど、でも、なんか違くて。センセが触ったせいで、あったかくなったの」
「…うん」

それは黒崎にとってものすごいカミングアウトだったけれど、口をはさむのはやめて、また静かになで始めた。

「それで、チューされて、倒れちゃったとき、夢見てね」
「どんな?」
「センセが、知らない女の人と結婚して、どっか行っちゃう夢」
「……は?」

きょとん、とそれには手を止めて、思わずチロを見る。
だけどそれに目を合わせないように、ぎゅうっと自分から黒崎の胸に顔をうずめ、続きを話す。

「僕が呼んでも、センセは振り向いてくれないの。それでね、幸せそうにその女の人といなくなっちゃって、最後に、赤ちゃんがばいばいって僕にするの」
「―――…」
「それで、僕、すご、い…ひくっ、さみしく、なっちゃ…っ」

自分の何も着ていない上半身が、冷たいもので濡れている感触がした。
たまらなくなって、チロを先ほどと同じように押し倒す。
違うのは、唇を押し付ける位置。目じりにたまった涙を吸い取るように、口を寄せて舐めた。

「…チロ、お前、いつになったら俺を信用してくれるの」

涙目で見上げるチロに、いつもと同じように興奮したりはせず、気持ちは凪いだままだった。

「ずっとさ、俺、言ってたじゃねえか」
「…?」
「お前にしか、こういう風にキスしたり、抱きしめたりしねえって」
「……」
「今更さ、女がどーとか言うなよ。こっちはお前が中学生の時に体験入学しにうちの高校来るときから、ずっとお前のこと見てたんだからな」
「…ぇ」


「1年も前から、ずっと見てたんだ。―――筋金入りの、お前馬鹿だよ、俺は」


風邪を引くと、心細くなったり、世界に一人だけしかいないような錯覚に陥ることがあるらしい。
チロも例にもれずそうだってわかっている。
だけど、自分の気持ちをいまだに信じられずに、疑われるのには、正直腹が立った。


「セ、ンセ………」
「誉って呼んで、――千紘」


「ほ、ま…れ…」


それに優しく、優しくキスを落とした。


end




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