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まさかの主役が不在の誕生日パーティーが始まって20分。
まさにパーティー内は天国と地獄だった。
架月が作った殺人兵器にあたらなかった人たちは、満面の笑みでシュークリームを消化する。
しかし運の悪かった残り16人の男たちは井上と同じように奇声を上げトイレに駆け込んでいく。
その中にはサッカー部で俊足と名高い町田の姿もいた。
千紘と外山は美味しいね、と笑顔で頷き合っていた。
「おー、やってんなお前ら。…ん?井上は?」
「トイレ行ってるー!」
「…てかこんなに最初人少なかったか?」
残ったメンバーでもぐもぐと食べていると、スーツのネクタイをゆるめながら黒崎が中に入ってくる。
男前で授業も分かりやすくノリもいい黒崎はサッカー部のような集団にも人気があり、今も「くろやーん!」とあたたかく迎えられている。
「おー、チロ、何食ってんだ?」
「シュークリーム」
「手作り?」
「ひいちゃんの!おいしいよー」
すぐに千紘の方に足を進め隣の席にちゃっかり座る黒崎。
てけてけとそこに架月があまったシュークリームを持ってくると、
「はい、くろやん。あまってるからあげるー」
「お、サンキュ」
それに千紘は慌てたように架月の服の裾をひっぱると、耳元で
「ひいちゃん!大丈夫なの?」
「大丈夫だよー。昂也の歳の数しかはずれは作ってないし、あとはみんな当たったし!」
「そっか」
自信満々な架月の様子にほっとして手を離すと、にっこりと架月は黒崎にはい、とシュークリームを渡す。
「なんだおまえら」
「んー?秘密ー」
ぱくり、と口に含み、咀嚼した瞬間。
―――黒崎の顔が、真っ青になった。
「か、かっれええええ!!!」
いつもはクールな黒崎は悶えて辛いと叫ぶ様子に、周りは騒然としている。
「ひ、ひいちゃっ!!」
「と、とりあえず水…!」
「あ、僕オレンジジュース持ってる…センセ、飲んでっ」
黒崎の口元に自分の飲みかけのオレンジジュースを差し出すと、ぐっと千紘の手の上に自分の手を重ね一気に飲み干す。
「…おい、雛沢…」
「ごめんーっ!昨日試作品で作ってたハバネロシューが混ざってたみたい!」
「ハバ、ネロだと…?」
今も真っ青な黒崎の背中をさすりながら、千紘が
「ひいちゃん、今日ロシアンシュー作ってきたんです…井上くんの歳の数と同じハズレが入ってる…」
「ごめんねくろやんっ」
てへぺろ☆と悪びれもなく謝る架月に拳骨を食らわすと、いたーい!と涙目でわめく架月。その様子に千紘が駆け寄ろうとしたが、お腹に腕が回され動かないように引き寄せられる。
そのまま黒崎の膝の上にのせられた千紘は、どうしたの、と慣れたように向かい合わせで座る。
その様子にSクラス以外の人たちは驚き口をあんぐりとしている。
外山は戻ってきた町田と井上と一緒に、半泣きの架月を慰めていた。
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