1


折笠千紘(おりかさ・ちひろ)は、1年S組の委員長として今日も小さい体で頑張っている。まるで小動物が頑張っているように錯覚するその姿は、Sクラス内ではアニマルセラピーのような効力を持ち、今日も癒しを求めてクラスメイトたちはチロを愛でる。

「チロー、おはよー!」
「井上くん、おはよー」

委員長の毎朝の日課である教室の鍵開けのために、渡り廊下を渡って職員室に向かっていた千紘を、窓の外からサッカー部の朝練のためにジャージ姿でグラウンドを走っているクラスメイト、井上昂也(いのうえ・こうや)が大きな声で叫んで挨拶した。
それに千紘は体全体でぶんぶんと力いっぱい挨拶すると、にへらーとサッカー部全員の顔がにやける。

「可愛いな、折笠」
「ああ。なんかうさぎとかハムスターとか、とりあえず小動物っぽい」
「千紘って名前も可愛くね?」
「おう、可愛い」

口ぐちに井上とその友達で同じクラスの町田以外の部員が、千紘のことを思い顔をゆるめさせる。それに二人はため息をつくと、

「お前ら、S組来てんなこと言ってみろよ。くろやんにぶっ潰されるぜ」
「ああ。お前らやべーよ」

ぎゃははは、と盛り上がっていた会話が途切れ、一気に静寂に包まれた。


そんな会話がなされているとはつゆ知らず、千紘は鼻歌を歌いながら職員室に足を運ぶ。毎朝そろりと扉を開けて邪魔しないようにこそこそと中に入ってくるその様子に、職員室の先生も心なしか顔がにやけている。ほのぼのとした朝の風景に、Sクラス以外にも千紘の癒し効果は浸透中である。

ぞろぞろとクラスメイトが来てチロに挨拶する。
くろやんがいない朝がチャンスだ、と千紘とスキンシップを図るSクラスの生徒たち。それに千紘は「や、やめてよー!」と言いながらも懸命に抵抗するが、小さい体からはそう大した抵抗ができるはずもなく、最後はおとなしく撫でられていた。

「おはよぉチロちゃん」
「お、おはよう、ひいちゃん」

千紘とはまた違った愛らしい容姿で人気な雛沢架月(ひなざわ・かづき)が、眠たい目をこすりながら千紘に挨拶すると、ほっとしたように架月に駆け寄る。

「……くろやんは?」
「あっ!センセ、また寝坊だっ!!」

予鈴が鳴ったのに担任が来ないということは、それは完璧遅刻だということ。
チロはもう一つの朝の日課である、担任の黒崎誉(くろさき・ほまれ)を起こしにまた来た道を小走りで戻った。

「チロちゃんいつ気付くんだろ、くろやんがわざと朝起きてこないって…」

残されたクラスメイトは、大人の策略に気づくことなく頑張っている小さい委員長に同情した。






[ 1/28 ]

← 
top



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -