∵ 05

昔から、僕よりも茜の方を何かと周りは気にかけた。
一人でできる、と勘違いされる僕と、守ってあげなきゃ、って思わせる弱さを持つ茜。
好きになった人が全員茜に流れる、ということはなかったけれど。

茜が泣いたときから、心の奥底でずっと思ってた。
もし隼くんは、これが僕だったら、葵だったら。こんな風に、怒ってくれたのかな。
漆原だって、茜のためだから動いた。
――僕のことを、本気で思ってくれる人は、家族以外にいるのかな。


漆原がつぶしに行く前に、茜の元彼のチームは解散した。
理由は最近腑抜けな総長に嫌気がさした下っ端が次々と抜け、チームとして成り立たなくなったからだという。今はその抜けた人たちで作ったチームがあるらしいけど、それは弱小なのでどこのチームも気にも留めてないという。
次々と辞めていくのを、元彼は止めなかった。もともと暇だから結成したチームらしいし、対して思い入れはなかったみたい。副総長と幹部はお友達みたいだし。

漆原から聞いたことを頭の中で思い返しながら、僕は一人元総長たちが今たむろしているという一軒のバーに来ていた。
隼くんも連れてこようかと思ったけれど、茜に対して優しく笑う隼くんの顔を思い出して、なんだか言い出せなくて一人で来た。
なんだかさっきからしんみりしている。こんなの僕らしくないなあ、と取り繕うように笑った。
繁華街の裏道に入った、喧噪が遠くに聞こえる路地裏。
街頭はなく、薄暗い細い道に隠れるようにして建っている。実際隠れ家的テイストなんだろうな。

カラーン、と扉を押すと、来客を示す鈴が軽く音を立てて鳴る。
その音に中にいた数人が振り向いたけれど、薄暗い照明に照らされて、顔がよく見えなかった。けど、金髪だっていう情報だけは聞いてたから、見つけるのは容易だった。

「……新(あらた)…」

その声に、奥でぼーっと手の中のグラスの水滴をじっと見ていた、金髪の男が勢いよく振り向いた。

「あ、かね……?」
「―――……」

それには返事をせずうつむくと、横に寝そべっていたソファから降りてツカツカとこっちに向かってくる。

「茜、こっち向け…」

顎をとらえられ、顔をあげられる。
泣きそうに潤んだ茶色の瞳と目があった。

「……お前、葵の方か?」
「………気づくの早いね。流石茜の元彼」

―――元彼。強調するようにゆっくり言ったその言葉に、カっとなった新に手をあげられそうになったけど、それに向かって僕は言った。
新を止めようと、副総長や幹部があわてて駆け寄ってくる。

「あんたせいで、茜は泣いてた」
「―――っ!!!」
「茜はね、今、違う人とラブラブだよ。あんたみたいに茜の愛を疑ってるような奴なんかじゃない奴とね!!ざまあみろバカ!!!」
「お、俺は……っ」
「言い訳とかすんなっ!お前が女抱いてた時、茜はずっと泣いてたけど、あんたのこと好きだから耐えてたんだよ………っ」

ぼろぼろと涙がこぼれてくる。
何が悪いのかわからなくて、責める言葉しか出てこない。
新が悪いのは明白だけど、この人だって本当に茜のことが好きだって、わかるから。許したわけじゃないし、あんなやり方は間違っているけど。
痛いほど好きだったって、後悔してるってわかるから。
だからこの人は、茜とおんなじ顔をした僕の前で、悲痛に泣いてる。

「分かんなかったんだ、人の好意の確かめ方が……っ茜、俺が女抱いてると、泣きながら逃げるから、そんときは、俺のこと好きだって実感できたけど―――……っ」
「馬鹿、ですね、君は…」
「ほんと馬鹿だな」

副総長や幹部が呆れながら新を見る。分かってる、と小声で新が言い返したのに、なんもわかってないよばかあ、とぐちゃぐちゃな顔で叫んだ。
僕はぼろぼろと、新はこらえるように噛み殺して泣いた。



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