∵ 03

とりあえず、学園に戻った僕たちは、そのまま学園生活を過ごしていた。
圧倒的に復讐相手の情報が少ないので、茜の元彼はとある族の総長だったという話を思い出した僕は、ガラの悪い奴ばかりの掃き溜めのクラスと呼ばれる学園の最底辺のEクラスに単身で乗り込んだ。
僕はそいつらとは違ってSクラスという学園最高のお坊ちゃまクラスだから、最初足を踏み入れた時は、いろいろ言われたし、掴み掛られそうになった。
それでも僕は歩みを止めることはなく、目当ての人物の前に立つと、

「君がこのEクラスのリーダーで、外ではナンバー1の勢力を持っているチームの総長の、漆原鶚(うるしばら・がく)?」
「―――アンタは、葵姫の方か?」
「そう、ご名答。よくわかったね」
「弟より、なんか雰囲気が獰猛」
「あはは、なにそれ。…まあ、当たってるかも」

くああ、とあくびをして退屈そうに長い脚を行儀悪く机の上に乗せている、この学園では目立つ黒髪に紫のメッシュを入れた美形に、僕はにこりと茜とは違う妖艶な笑みを口元に浮かべて、言った。

「君の力を見込んで、頼みがあるんだ」
「…は?」
「ナンバー2のチームの総長って、どんなやつ?」
「……なにあんた、あいつに惚れたの?あいつはやめと…」
「反吐が出るようなこと言わないでくれる?」

その言葉に、僕をにらみつけていたEクラスの連中が吠えた。
てめえ、総長に何様のつもりだ!!とかぎゃんぎゃんうるさい。それにひるむこともなく、僕はにっこりと彼が足を乗っけている机に座り、足を組み言い放った。

「―――僕はね、あいつを社会的に抹殺してやりたいの。家族には何も危害を与えず、あいつだけを確実に、ぶち殺してやりたいの」

その言葉は、静まり返ったEクラスに大きく響き渡った。


「は、はははっ!!いいね、葵姫!オレ、そーいうぶっとんだ人、だぁい好き」
「ありがと。で、協力してくれるよね?」
「まー、オレらのチームも正直あいつら邪魔だと前から思ってたし。…いいよ、協力する」
「じゃあさっそくだけ「待った」…なに?」

にこり、と手で発言を制されて、僕は眉をひそめた。

「ぶっ殺したいほど憎んでるのは、なんで?」
「なにそれ。教えてなんか僕に得はある?」
「いや。でもまあ理由次第でオレのモチベーションが上がる」

うそつき。
目が真剣で教えなきゃ動かないって言ってるくせに。
ふう、とため息をつくと、漆原から目をそらしながら

「……大切な人が、傷つけられて、泣いてるから」

ほかのやつらはわかってなかったみたいだけど、勘のいい漆原は、なるほど、とつぶやいた。そのあとの目はさっきまでと違って、まっすぐで。僕より付き合いの長いEクラスの人たちも、こんな漆原の雰囲気は見たことがないのか、戸惑って、緊張が走っている。
―――もしかして、こいつ、茜のこと………。
そう思ったけど、その考えは全部僕の憶測でしかないから、考えるのをやめた。


僕が漆原をけしかけている間に隼くんは、早々に茜を殴ったクソ女をたらしこんだ。
報告がてら隼くんに会いに部屋に行く。
煙草をふーっと美味しそうに吸いながら、それでも茜に対してした暴挙にまだ怒っているのか、目だけはぎらぎらと獰猛に輝いていた。

「俺みたいなイイ男に誘われて有頂天になってるとこを、突き落としてやった。プライドずたずたにしてさ。街中であんなこと言われて、あいつもうここにはいられねーぜ」

ケタケタ、と悪魔のようなことを悪びれもなく言う隼くんに、協力者ながら僕は少しぞっとしたのを覚えてる。隼くんだけは敵に回さないでおこう、と今回味方でいてくれてよかったと心底安堵した。

所詮茜の元彼の顔だけがタイプだったんだろう。誘いにほいほい乗るクソビッチなんか、茜と比べたらカスみたいなもんだ。同じ人間としても扱いたくない。

じゃあ僕はどうしようか、と思っているとき。

「そういやさ、あの女に面白いというか、腹立たしいというか。とにかく、あいつに関する情報を聞いたんだけど」
「なに?もったいぶってないで教えてよ」
「せかすなって。…あいつさあ、」

ああ。
だからあの女は茜を目の敵にして、あいつは茜の前で平気に浮気繰り返して傷つけてたわけ?

本当に、馬鹿じゃないのか。
馬鹿すぎて、

「泣くな、葵」
「う、うう、でも……っ」

―――茜に愛されているって分かりたかったから、なんて。そんなの、あんまりだ。
―――あの女といるときも、茜のことばっかり考えていたから。だから、あの女が勝手に嫉妬して、殴って、それについてもめちゃくちゃ怒られて捨てられたって。

都合がよすぎる。馬鹿じゃないのか。
そんなの、信じてもらえなかった、茜がかわいそうだ。


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