∵ 05


授業中か?長く響くコール音に、また後にしようかと考えていると、唐突につながった。

『ちょっと…』
「陽摘か?」
『……尊』

戸惑いがちに俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「急になんなの、お前」

思いのほか責める口調になった。とっさに口を押えるけど、陽摘は特に気にした様子はなく、次の瞬間、泣き始めた。

『やっぱり、僕、耐えれなくって…ぐすっ、』

陽摘が泣いているところなんて付き合っていても見たことがない。なんで電話をしたのだろうかとか、そういう大事なことが一瞬吹っ飛んで頭が真っ白になった。

「陽摘、お前、泣いて…」
『尊は、かっこいいし、僕とはめったに会えないから、浮気されてても仕方ないって思ってたけど…っ、やっぱり、つらいよ………っ』
「………ひ、つみ…」

動揺して言葉もとぎれとぎれになってしまう。耳元で泣いているのは、陽摘だ。
初めて会ったときも凛として、浮気したときも特に何も言わなかった。
だけどそれは俺の勘違いだった。陽摘はちゃんと俺の浮気に悲しみ、−−−俺に執着していたのだった。
それが分かった時、心の底から湧きあがる何かを俺は抑えるのに必死だった。
興奮して、血が沸騰したかのように体が熱い。

ああ、陽摘。俺はお前のことを愛していたよ。本当に。
だけどその気持ちがいつの間にか歪んでおかしくなっていた。

『今までありがと…っ』

なにも弁解する気はない。
俺はきっと明日になればいつもの通り飯も食うし女も抱くだろう。陽摘と付き合っていたことは過去になる。ああ、だけど少しさみしいと感じたのだ。陽摘と別れることが。




そう浸っていた。これで終わりだと俺も思った。けれど、違った。


『た、隊長、会長が凪さまに…!!』


バーーーン、と扉かなにかを開けると同時に、息を切らした男の声が聞こえた。
次の瞬間。


『何!?!?!?とうとう告白した!?!?!押し倒した!?!?!?』


―――――は?



『そんなことヘタレな会長にはできませんよお…っ』
『くっそヘタレめ!!で、何!?』
『今度一緒に、街に買い物に行く約束を取り付けてました………!!』
『デートじゃん!!!ばか統臥やるじゃん!!!』



うわあうわあと興奮気味にはしゃぐ声もまた、俺の知っている陽摘の声で。



「………陽摘?」

あんぐりと口をあけるなんて経験、生まれて初めてだ。

やっべえ、とかばれちったよーなんて声が聞こえる。いやいやいや。

『わ、別れたくないけど、仕方ないよね…ぐずっ、今までありがとう、ばいばい…!』
「おい、陽摘、お前もしかしてあれが素――――」



ツーツーツー。


「………ウソだろ」


俺は、見事に陽摘の手の上で転がされていたというわけか……?!


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