∵ 03


浮気がばれたと思った朝も、陽摘はいつも通りだった。
罵ることもせず、泣くこともせず、ただいつも通り、「おはよう」と言った。

少し拍子抜けをした。いやだいぶ。
陽摘は男というよりは、女みたいなやつだからヒステリックに喚くとばかり思っていた。

「僕今日すぐ帰らなきゃいけないんだ」
「は?昨日は夕方までいいって言ったじゃねえか」
「ごめんね」

今日は夕方まで大丈夫だから、と言ったのは陽摘だったはずだ。それが朝起きたとたんそんなこと言い出すなんて明らかにおかしい。眉を寄せてつのる俺に、陽摘は何もいわずただ謝るだけ。なんだかそれが、余計に疎外感を感じさせた。


「学校で問題があって。戻らなきゃいけなくなっちゃった」

そういえば陽摘はなにかの役職についていると言っていた。しかし今は高校生はテスト週間なはずだ。学祭や体育祭の準備はテスト明けにするということは明らかだ。

「なんの問題だよ」
「…なあに尊、やきもちぃ?」

くすりと陽摘が困ったように笑うから、ついかっとなる。5歳も年下のやつに馬鹿にされるなんてプライドが許さなかった。

「うるせえ、早く帰れまじで」
「…ちょ、なに怒って…」
「いいから。うぜえよ」

豹変した俺に目を丸くしていたけれど、はあとため息を吐いてそのまま別れた。
さよならという言葉もなにもなかった。






それから1ヶ月会わない日が続いた。たまに電話もしたけれど、誰かと喋って中断されてしまいには切られることがしょっちゅう続いたから、自然としなくなった。
俺は女のよさにだんだん心が傾いていって、陽摘のことなんて忘れて女を手当たり次第抱きまくった。


「尊くん、あの可愛い子は?」
「あ?」
「あの男の子!ヒツミくん!」
「……ああ」

いつか陽摘を囲っていたうちの一人の女子大生に話しかけられた。陽摘と付き合っていたことを噂で知って応援していたけれど、俺が女遊びを再開したことを訝しげに思ったらしい。


「やっぱ男は無理だわ」
「…ふうん」


何か言いたそうな顔を無視して、次の約束の場所に急いだ。


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