02


「アイはどう思う?」
「どう、とは…」

恐れ多くも蘭さまの自室に入れてもらったボクは、蘭さまにも絶賛されたことのある紅茶を淹れ席につくと、唐突にそう切り出された。

「面白くなると思う?」
「……えっと」
「これはふつうに見たら、異常なことだと思うよ、僕だって。でも、フリーの人同士が遊んだところで、誰も傷つかないでしょう?」
「でも蘭さまには、鷹栖さんが…」
「鷹栖はだって浮気ばっかりしているし。というか、僕にとっては彼氏というよりは、やっぱりセフレっていう考えだったのかも」

それにあっちばっかり自由なんて、不公平でしょう?
超持論だとは思うけれど、なんだか有無を言わせない説得力がある。

「…彼女がいたり、片思いされてたりしない限りは、いいんじゃないかなあと思います」
「片思い。その点を忘れてたよ。そっか…それもあるね。情ってゆーのはどっちに矢印が向いているか分からないからなあ」
「だけど別に体を繋げることが目的じゃないんですよね。模擬恋愛、というか、よく言えば運命の人を見つけるっていうことだったら大丈夫なんじゃないですかね…」
「運命の人っていうのは面白いね」

ちょっとくさいセリフすぎただろうか。

「僕はさ、普段ずっと演技してるんだよ」
「え…?」
「学校での自分、家での自分、鷹栖の前での自分。みんなどこか少し演技をしているんだよね。だけど僕はそんな自分が嫌いじゃないし、むしろ好きなんだ。いろんな自分が演じられるこの環境が大好きだ。だけど学校じゃ家だともう性格は変えられないから、新しく演じれる環境を作りたくて、このむちゃくちゃなことをしようと思ったんだよ」

―――演技。
ボクが見ている蘭さまは、ホントウじゃないのだろうか。
ちくりと少し胸が痛んだ。

「ああ、今ちょっと傷ついたでしょう?」
「えっ」
「耳が垂れ下がった。犬みたいだねほんとに。僕、アイのそういう顔大好きだよ。可愛い」


―――なんて魔性な人なんだ。

「とりあえず鷹栖とは距離をとることに決めた。だからアイ、いちいちメールとか送らなくていいからね」


多分蘭さまが一番言いたかったのは、このことだったのだろう。
ボクはメールの件数を控えめにしようと心に誓ったのだった。


その次の日から、蘭さまは一週間に一回ほどはとっていた週末の外泊届を提出することをぴたりとやめた。


「さあて、誰にしようかなあ」


蘭さまが楽しそうなら、ボクはそれでいいのだ。



おわり







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