「学園の奴らが騒いでるぞ。蘭様が別れたって」 「ふうん」 「それでお前のことどーにかしようとしてる奴らもいるみてえだ。気をつけろよ」 書類にさらさらと走り書きをすると、長い脚を下ろしてそのまま僕の座っていたソファに腰掛ける。 「なんで隣に来るの」 「隣にいたいから」 「あっそ」 宝の言動は特になんの意味もない。 中学からずっと一緒だったけれど、こいつは好きと言った相手を笑いながら殴れる、そんな意味のわからない男だ。100%信用ならない。 普通なら胸が高鳴る場面かもしれないけれど、僕はただ前を見つめるだけ。 「まあ、ほんとに気をつけろよ」 「……ああ、うん」 一瞬なんのことか分からなかったけど、すぐに学園のうわさについてのことだと思い出す。 「大丈夫、うちには優秀なイヌがいるから」 「ちょっと妄愛的な?」 「うん」 険のある目にさらされながら、それでも僕の帰りを待ち続ける、かわいいかわいいイヌ。 「かわいいけれど恋人にはしたくないな。アイが頬を染めながら腰を振ってる姿、容易に想像できるし。その下で興醒めするのも」 「へえ、お前、あのイヌ相手でも下なのか」 「うん。僕上よりも下の方が向いてるし」 「…へえ」 宝が淹れてくれた紅茶を置いて、常備してあるクッキーを口に運ぶ。 「一回抱いてみてえな、お前」 「…え、それはだめ」 「なんでだよ」 ああ、この顔は本気だ。面倒くさい。 いつの間にか宝が僕のほうを向いて、それからゆっくりソファに押し倒していく。背もたれから腕をすべらせ、あっという間に僕を閉じ込めた。 ← | top | → ×
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