キスの日
とうとう、永知に追い掛けられ捕まって泣きながら美味しく食べられる唯を見かねた副会長親衛隊たちは、せめてもの妥協案を永知に出した。
「…せめて襲うのはふたりっきりになったときで、普段はキスだけで我慢してくださいっ」
永知としては電撃が走るほどに衝撃的な宣告だったのだが、唯としてはキスもいやです!と不服である。だけど、そんなこと言ったら今よりさらにひどくなりますよ!と親衛隊にたしなめられると、うりゅと口をつぐむしかなかった。
「舐めるのは?」
「…脱がさない範囲なら」
どうして僕の話なのに当事者を交えて話さないんですか!とこれには怒った唯が勇気を振り絞ってぷるぷると怒ると、永知は満面の笑みで
「なんだ唯、寂しかったのか?」
「ち、ちがいま…ひゃん、ど、どこさわ…っ!」
「ケツ。あー癒される…おら、もっと近くに、っと」
「やっ」
ぐい、とそのまま腕を捕まれ膝の上に無理矢理のせられる。
右手は唯の頭を優しくなで、左手はお尻をいやらしく撫でる永知。それをひきつった顔で親衛隊たちは見ながらも、じゃあ頼みましたよ!とわざわざ念書まで書かせて去っていった。
「は、離してくださ…っ」
「唯、今日はなんの日か知ってるか?」
「…え?」
「キスの日って言うらしいぞ」
「…ほ、ほんとですか?」
かなり嘘臭いと疑う目を向けると、目元に唇を落とした永知が愉快に言う。
「何十年前かに初めて日本映画でキスシーンが起用された記念すべき日らしいぜ」
「そ、そうなんですか…」
「あとは恋文の日」
「あ、5月23日だからですか。うまいですね」
「な」
この会話中一度も永知の手は唯のお尻からは離れていない。
「だから唯」
「え?」
「今日はキスする日だって国に決められてんだ、仕方ねえよな?」
「……え?」
とたんにたちこめる嫌な予感に、直ちに逃げようと突っぱねるが、それで成功したことは一度もない。永知も慣れたようにはいはい、と抵抗する腕を掴むと、そのまま最初から舌を絡めた深いキスをした。
抵抗らしいものもできずに懐柔され、慣れた舌が唯の唾液をも掻き回す。
やわやわといやらしく撫でる手と、とろりと思考をも熔けさせるキスに次第に唯が何も考えられなくなると、それを見越したように唇を離し耳元で永知が囁く。
「なあ唯、気持ちいいだろ?」
「ん、ぅ…」
ちろりと舌が唯の耳をなぶる。
耳さえも性感帯である敏感な唯はふるりと体を熱く震わせる。
「唯は、キスの先のことも、だぁいすきだよなぁ?」
「ゃ、すきじゃ、な…」
「好きだろ?俺とのなら何でも」
自意識過剰にもほどがあることを自信満々に言い放つ永知に、くらりとめまいがした気がした。
「あーぁ、唯が好きなら仕方ねぇな」
動かない唯の体を簡単にお姫様抱っこで持ち上げ、そのまま生徒会室の奥に設置してある仮眠室へと運んでいった。
「なに、焦らすなって…?」
「ふ、お、みく…」
「じゃ、約束しようか」
「ぇ?、ん、あっ…」
「5と2と3の数字が付く日はキスとセックス、1が付く日は俺ん家に泊まる。あとはキスだけで我慢してやるよ」
「…え、?」
「はやくしねえと、いつまで経っても触んねえぞ」
「…ゎ、かりました…」
了承の返事ににやりと口角を上げると、隠してあったレコーダーに録音してあることを確認し、満足げに頷いた。
「もう言い逃れはできねえぞ、唯」
本人の了承はとったからな。
親衛隊との約束は破棄だな、と計算通りに事が進んだことに満足し、そのまま腰を進めた。
「両方数字がつく日?……まあ、とりあえず、部屋から出せねえくらいしちまうかな」
俺しか見えないように、なんて。
end
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