後篇
「まさかザルか…?」
唯の思惑通り、永知は当然ながら酔っぱらった唯を介抱と称しあれこれしようとしていたのに。
まあこういう唯もいいか。結論、唯ならなんでもいい。と誰もがでしょうね!と思う結論に陥った永知は、顔色すら変えることなく平然とお酒を飲む。
成人になってからお酒を飲むなんて、これまで幾度となく社交場などで大人とまじって会談してきた永知には無意味な忠告だった。
「自分が酒飲んでどうなるか知らないまま初めて飲むなんて暴挙、出来ねえしな」
いくら変態でも、世界でも有名な会社の御曹司である。
真っ赤になってお酒を飲む唯の髪を撫でながら、つぶやいた。
「おみくーん…」
物思いにふけっていた永知の思考を中断させたのは、ほかでもない唯だった。
いつもより幼くつたないしゃべり方で、目をとろーんとさせてこてんと永知によりかかる。だけど力が入らないのか、ずるずると胸元まで顔を滑らせ、足元に向かうその前に永知が抱きしめたおかげで、体がそこで停止した。
涙目で上目遣いで、へにょりと笑いかける。唯の久しぶりの満面の笑みに、永知は理性が切れそうになるのを気合で抑えた。
「どうした、唯」
「おみく、かなしそーな顔してましたよぉ、らいじょうぶですかー」
慰めのちゅう、と唇に唯がキスを落とす。
初めての唯からのキスに、永知は今度こそ唯を連れて親睦会の会場となっている部屋を抜け出し、ふらふらの足取りの唯をお姫様抱っこして自室に連れて帰った。
「唯―――」
「なんれすか」
「俺は、お前のことが好きで好きで愛おしくてたまんねえんだ。お前が泣いても嫌がっても、俺はお前のことになると理性なんてすぐぶっ飛んじまう」
「…」
「好きだ、愛してる―――」
「ゆいはぁ」
たどたどしい言葉が、永知の独白を遮る。
「おみくんのこと、きらいらって、おもってないよぉ?」
「…え?」
「らって、おみくんって、いつもおいかけてくるし、えっちなことするけろ、」
「…うん」
「なんれかなぁ、きらいになえないのぉ」
戸惑っている唯の様子に、これが本心だとわかった時。永知はたまらず、荒々しく口づけていた。
呼吸さえも奪うような激しいキスに、唾液が糸を引く。
唯の方に永知が視線を向けると、情事中に見せるようなとろんと頬を赤く染めた色っぽい表情をして、「もっとぉ」と永知の首元に腕を絡め自分の方向に引き寄せ、ある言葉を囁くと。
「誘ったのは唯だからな―――」
ぷちぷち、とボタンが外される音と、唯の嬌声が部屋から響きだした。
――――おみくんのちゅう、好きぃ。
耳元で熱く囁かれたその言葉が、引き金だった。
「てことがあったんだけど、覚えてるか、唯」
「や、や、もうやめてくださ…!!!!」
皮肉なことに、目覚めた瞬間に自分が酔っぱらって何をしでかしたか、すべての記憶が残っている唯は真っ青になりながら追いかける永知から逃げまわる。
嬉々として唯の言ったことや様子を一字一句、間違えることなく大きな声で叫びながら追いかけてくるのだから、まわりにいた生徒や先生に情報は筒抜けである。
「やっぱりくっつくのは時間の問題だね」
「ねえ」
唯は知らない。
生徒たちが誰ひとり「唯が永知に落ちない」と賭けた人はいないと。
「早く素直になればいいのにね」
「とりあえず会長が、あの変態度合を直さなきゃダメだと思うよ」
ですよね。
end
3か月の失態は、前篇後篇のこれでお許しください!
唯がでれた回でした。
ちなみに、永知は酔っぱらうと考えに耽る子。酔ってる方がいつもよりよっぽどまともです。
唯は幼児後退というか、しゃべり方が幼くなります。
現実にこんなやついたらぶっとばしたくなるけど、いいじゃない。BLはファンタジー!
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