∴ 1 ある日の二人。 教室の前でだべる天下の生徒会長、国見統臥とその親衛隊の榎本陽摘。 周りはざわざわと遠巻きに見つめるだけで、特に何も言うことはなく去っていく。 「陽摘、お前最近様付けで呼ばれてるらしーぜ」 「ふーん」 「…そんだけか」 「それより統臥、凪くんとはどうなったの?」 「…」 陽摘の中では、最重要事項は「凪と統臥の恋愛」である。 それは陽摘自身の恋愛にも言えることで、彼は統臥の恋のために自分の彼氏を切り捨てた。 しかし、歴代の彼氏とは違い、今回の彼氏は一味違った。 「またあいつ、トウガトウガって…」 穂積尊、23歳。 大学卒業後、どうやってかこの学園に保険医として転がり込んできた。 ――陽摘を取り戻すために。 そして尊の中では、「トウガ」という存在は敵、とインプットされているらしい。 基本陽摘が笑顔で話している相手には嫉妬するが、統臥だけは異常に意識しており、こうやっていつも影から見ている。気持ち悪すぎる。 「おい陽摘、あの保険医どうにかしろ」 「はぁ?会長の統臥がどうにかしなよ」 「…(視線でやられそうなんだけど)」 被害者は、国見統臥ただ一人だった。 天下の生徒会長さまも、あんなにあからさまな嫉妬と殺意は向けられたことがなく、少し胃をキリキリさせた。 というか、正直こええ。 ヤンデレストーカーという新しい世界を切り開こうとする尊だった。 「おい、陽摘」 とうとう我慢できずに尊が呼ぶ。 「…呼んでるぞ、保険医」 「…統臥が凪くんと今日ご飯一緒に食べるんだったら行く」 「は?」 あくまでも、陽摘の中では(以下略) 「お、統臥に榎本ー」 「凪くん!」 「な、凪…」 そこでタイミングよくあらわれる、いつもは空気の読めない男、時任凪。 きちんとネクタイを着用し、にこにこと笑顔で寄ってくる。 |