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「お前さ、あのメールなんなの?別れたいって、本気?」
「……本気だよ」

一斉に隊員たちは、お前誰だよ!!!!と総つっこみをする。
自分たちが知っている榎本陽摘は、こんなしおらしい声なんか出さない。
学園内では女王や、会長の飼い主、おかんなどという愛称でこっそりと呼ばれている男である。

「隊長、彼氏の前で猫かぶってたんだ…」
「怖い……」



「急になんなの、お前」
「やっぱり、僕、耐えれなくって…ぐすっ、」

うわあああ泣いてるのに涙が一滴も出てない!!!
悪女並の泣き真似のうまさに、陽摘の恐ろしさを再確認する隊員たち。
そんなことはつゆ知らず、陽摘は声だけならこっちのもんだ、とさらに泣き真似を続ける。
めったに泣かない陽摘の声に多少動揺しているのか、いつも自信に充ち溢れている声が初めてどもった。

「陽摘、お前、泣いて…」
「尊は、かっこいいし、僕とはめったに会えないから、浮気されてても仕方ないって思ってたけど…っ、やっぱり、つらいよ………っ」
「………ひ、つみ…」

よし、あとちょっとだな。

「今までありがと…っ」

難なくフィニッシュを迎えようとしたとき。
資料室の扉がばーん!!と大きな音を立てて開くと、慌てた様子で統臥と凪を見守っていた隊員が息を切らし中に入ってきた。

「た、隊長、会長が凪さまに…!!」
「何!?!?!?とうとう告白した!?!?!押し倒した!?!?!?」
「そんなことヘタレな会長にはできませんよお…っ」
「くっそヘタレめ!!で、何!?」
「今度一緒に、街に買い物に行く約束を取り付けてました………!!」
「デートじゃん!!!ばか統臥やるじゃん!!!」

興奮状態で携帯電話片手に叫ぶ陽摘。
その様子にはっとした隊員が、恐る恐る携帯を指さし、

「隊長……通話、中です……」

はっ、と顔色を変えた陽摘。
親衛隊長の陽摘から、恋人と別れ話をしている陽摘へと頭を切り替える。

「………陽摘?」

電話口から怪訝な声がする。

「わ、別れたくないけど、仕方ないよね…ぐずっ、今までありがとう、ばいばい…!」
「おい、陽摘、お前もしかしてあれが素――――」

ぶち、と無理矢理通話を切る。
そして着信拒否にし、メアドも電話番号も完膚なきまでに消去をし、尊という存在は見事に陽摘の中で消え去った。

「ふう、これでやっと専念できる…」
「いやいや隊長最後すっごい無理矢理でしたけど大丈夫ですか!?」
「僕が別れるって言ったんだから別れたの。てか浮気してたのはあっちなんだし、僕は悪くないも―ん」

小悪魔に笑いながら、優雅にフォークで目の前のショートケーキを口に運んだ。


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