∴ 04

「まじサンキュー!助かった!」

そのままぎゅう、と感極まってか凪が統臥に抱きついてくる。それには無意識のうちに背中に手をまわしていた。

「なんかお礼とかするべきか?」
「あー?んなもんい…」

は、と気付いた。
凪が統臥に対する、統臥にとっては決定的な違いを。

「名前、呼び捨てにすればいいぜ」
「……なま、え?」
「国見、じゃなくて、統臥って呼んでく…」
「統臥?」

初めて呼ばれた名前に、心拍数が高まった。
陽摘だって呼ぶくせに、それとは全く違う、甘美な響き。
――――ああ、俺は、どうしようもなく、凪が愛おしい。

「統臥って呼ぶだけでいーのか?」
「あぁ、俺だけがお前の名前を呼び捨てしてんのに、不公平だろ?」
「…なるほど、それは一理あるなぁ」

じゃあ、統臥な。
にこり、と腕の中の愛おしい存在は、統臥に向かってそう笑った。



次の日。きちんとネクタイを結んだ凪が現れたので、教室内がちょっとざわめいた。
なにしろ凪の筋金入りの不器用さは有名だったので、実は凪がネクタイを結べないということは周りには実際はばればれであった。それでも必死に隠している凪が可愛くてみんな黙っていただけだったのだが。

昨日凪が帰ってから怒涛の勢いで仕事を終わらせた統臥は、若干やつれながらも一日ぶりに教室にいた。
教室に入ってきた凪はたくさんのクラスメイトに声をかけられている。その声を聞きながら統臥は何も気にしていないように努めながらも、凪のことを気にかけていた。

「あ、統臥」

今度は凪がネクタイを結んだときとは比べようにならないほどの大きな衝撃が、教室や廊下にいる生徒たちを襲った。
――――時任(さま)が、会長を、呼び捨てにした…………っ!?!?
実はこっそり二人と一緒のクラスに在籍する陽摘も、いつの間にかの急展開に目を丸くしたが、それは一瞬で、あとは母親のような気持ちで凪の言葉を待っていた。



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