∴ やっぱりできない

時任凪は、今日もネクタイを結ばないいつものスタイルで、いつも通り授業を受け、基本手ぶらで登校しているため両手に何も持っていない状態で騒がしい教室を出る。
「時任さま、さよーなら!」
「さま付けやめろや!じゃーな」
「時任、じゃーなー」
「おう、お前も部活頑張れよー」
別れの挨拶にきちんと答えながら風紀室へ向かおうと歩いた。
が、ふと突然、先日統臥に言われた言葉を思い出す。

「…ちょっと行ってみるか」

時任凪は自他共に認める気分屋であった。

一方その頃、生徒会の仕事が立て込んでいたため、役職持ちの特権である授業免除を使い一日中生徒会室に籠りっぱなしであった国見統臥は、やっとゴールが見えてきた書類の山に目を通しながら、頭の中ではひたすら凪を渇望していた。

「うぜえ…」

――統臥は極力、授業免除を使うことなく仕事をこなしてきた。高校に入学してからすぐに生徒会へとスカウトされ、会計職を任されていたときのヤリチン時代は、特権を使って好きな時間にヤっていたため授業も休みがちだった。
しかし同じクラスに在籍する凪に恋をしてからはぱったりと淫らな行為も止め、授業もでるようになり、誰もが驚くほどの健全な高校生へと変化した。

そんな彼も今日の膨大な仕事量では休まずにはいられなかったようで。
ひたすら凪に会えない苦しみを書類にぶつける。コーヒーは今日で7杯目だ。
他の生徒会メンバーは自分たちの仕事を終わらすとさっさと帰ってしまった。薄情なやつらだ、と統臥は一人では広すぎる生徒会室で舌を打つ。
いらいらが積もりそろそろ限界が来そうだったとき、

「入るぞ」

ずっと求めていた人の声がした。


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