∴ 03 「――凪」 「あー?…国見かよ…」 呼ばれた凪がけだるげに振り返ると、そこにはいつものように口角を上げて笑う統臥の姿があった。 「なに辛気臭え顔してんだよ」 「うるせ、…!」 今度こそめんどくさそうに統臥を見上げた凪は、言おうとした文句を思わず飲み込んだ。 「お前今日いつもより頭おか―――っうお!」 いきなりぐいっとネクタイを前に引っ張られ、目を見開く。体重が前に傾き転びそうになったのをとっさに壁に手をついて避けると、凪の顔が目と鼻の先にあり今度は別の意味で驚いた。 (ち、ちけえ!!!) 真っ赤になった顔を凪には見えないように反らすと、凪がネクタイに手をかけていた手を離す。急にひっぱられよれよれに乱れたネクタイを見て凪はうなずく。 (――よし) 「おい国見」 「――なんだ?」 「ネクタイぐっちゃぐちゃだから直したほーがいいぞ」 「――はっ!?」 ふ、と自分の胸元を見ると確かに乱れたネクタイ。 お前が引っ張ったせいじゃねえかと思いながらネクタイに手をかける。 ――しゅる、 「――………」 凪を壁際に追い込んだ体勢なので、前を向けば凪の顔がある。そのことにどきどきしながら統臥はネクタイを結ぼうとすると、指先に視線が感じる。 「?」 そこには、統臥の動きを見逃さないようにじっと真剣に見つめている凪の姿があった。 |