混入


ガチャン、ドアノブが開く音は想像以上に重苦しくてまるで妊婦が立ち上がるときのようだった。もちろん前に立つのは妊婦とはかけ離れた一般的な男で何の因果か飯を食ったりする仲であったりして

「いらっしゃい」「ああ」
机に置かれたのは茄子と、なんだろうか?トマトやら混じったパスタにやたらと酸っぱいガーデンサラダ。まずくはない。うん、うまい。
無機質な応酬、互いに特に感情を出すでも無かった。感情はいらなかった、臨也が作るものを食べるのは所謂「味見係」としての役割で、淡々と感想を述べて淡々と受け流されるだけだ、これが常。ただ臨也はそう、とだけ呟いて一口二口摘んでガサガサと袋に詰め込む、バイバイ。だとか似つかわしくない言葉も一緒に詰め込んだ。いつだったかそれは食べ物に言うことじゃないと告げたら眉を寄せた。聞く耳は持たない、それはこれまでの、これからの俺と臨也との仕方ない関係。塩気に紛れて隠れたふり。
(これが諦めだとか、混ぜたらもう分かんねんだから言われたって気づかないさ)


「俺が何で君に味見を頼むか分かる」
大方の想像はつく、静雄だろう。臨也が好意を寄せているのも、また俺が好意を寄せているのも気付いてるはずで、お互いやっぱり無干渉なもんだから塩くらい小さいから。分からないふり

「分かってない」「何を」
うろたえる俺をみれないことが?切なく眉を寄せる俺がいないことが?ああそりゃすまんな、生憎俺は物わかりがいいんだ。
臨也が前髪を掴んだ、瞬間にびりりと痺れる痛みが走る


「ただの味見で呼ぶ?恋人でもない奴を?生憎おれもそこまで淫乱じゃあないんでね。君は自分を誰かの代わりだとでも思ってんだろう?ふざけんなってんだよ、俺はねえ、君でいいわけ。ドタチンじゃないと、」

いけないわけ。そうまくし立てて臨也はキッチンの奥へ引っ込んだ。いま俺の顔はきっととんでもなく間抜けだ、何故かって言わずもがな。
(柄にもなく赤面している)

口直しだよと飛んできたミントのガムボトル、うまく開けられなかった
(ミントの香りだって俺よか強い)

 


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