ふゆのほし


「駅に来い」
あのねこのクソ寒い中外に出る奴がいるの?反論したら「早く来ないと殺す」だなんて物騒な言葉を突きつけてきやがるもんだからどうにも頭が疲れて、残った僅かな思考力で駅までの道を絞り出す。財布に硬いピーコート、マフラーにブーツ、とりあえず防寒着。何もいらないと言うんだろうな、彼なら(こんなの分かりたくないけどさ、振り回されてちゃ仕方ない)

乗り継いで、乗り継いで指名された駅に着いた。初めて着いた駅だった。田舎くさくてホームがもの寂しいところ。
「遅い」同じく鼻を真っ赤にした彼が居た、ほらね震えてんじゃん馬鹿じゃない。

「あのねえ君、夜に人呼び出しといてその言い草はないよ、理不尽」
「いいから、こっち」
「なに、もう」

いつだって意味分かんないんだこいつは、夏だってそう、振り回されて数日の間放浪をした。と同時に、好きだと言われた日だった。そりゃもう暑いのにまた顔熱くしちゃって、恥ずかしいし暑いしで脳のみそはぶっ壊れてた。懐かしむ間も許さないジャイアニズムはとうに慣れっこで。
 でもこういうとこは嫌いだ、嫌い


「星、もっかい見たいっつってたろ」

補習で彼は毎日のように通って遊ぶ間すらなくて、その言葉は休みが終わって俺が教室でひとり、ぽつりと漏らしていたのだ。
目の前の星空が滲む。余計にきらきらとして、なんだか言い表せないくらいに、夏よりもっときれいで

(聞こえなかったんじゃなかったの、)
(バカシズ)


「臨也、もっと近くで見たいだろ」

行くぞ、と差し伸べられた手に俺はすっぽりと収まって、体温を分けてもらう。2人なら丁度よかった。

「全力で走れよ」
「分かってる」「ならいい」


36度5分の体温
星めがけて走っていく

俺たちは街を逃げ出したんだ、逃避行。持ち物は何もない
(いま繋ぐ手と、心があれば充分)



(好きだよ、なんて言わなくたって分かってね、おれのこいびと)

 


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