細胞


何だってしていい世界だった。
横たわっても頭を打ち付けても何だって変わらない世界は壁面底面どこだって真っ黒いスポンジで覆って何が動くでもなく足元だけ微かに沈んでいく。角なんか見えないだけでもきっとここに角はなくて何だって変わらないから突き当たりもなくて、うろたえるでもなく慌てるでもないのは生来の癖というか、セルティの影に包まれたみたいで至福だったから。

「君の中ってほんと、」
首無しだらけだ。黒いスポンジが動いたと思えば人の形になる。よく見覚えのある中学時代からの友人のような違うような相互関係。足を進めた分だけ沈んで浮くスポンジが気持ち悪い。こころを読むのはやめてほしい。何だってしていい世界だから居たって仕方ないことだと割り切ってみよう思い切ってみようそうしたら少しは、こう、楽なのかもしれないよね?

「臨也かぁ」「何その反応」
首無しが良かった?さして悲しくもなさそうに言うけど勿論だ。何だってしていい世界で、夢にまで見たセルティとの子作りだって叶うはずが。盛大に。打ち砕かれたわけだ。これ以上に悲しいこともない。その旨を伝えれば至って普通に何か問題でもあるのかと言うような顔をして臨也が言った。

「俺だっていいじゃない、疑似体験」
ぐ、と唾を飲み込んでから溜め息を吐く。吐いた中に襟元を掴んで、にやにやと憎たらしく笑う臨也に歯がぶつかる勢いで当たってみる。案の定ぶつかるし、ごつんと鳴る。「下手だね」申し訳ないが僕は再三述べた通りセルティ以外の女性に興味はない。なのでキスなどしなくても良かった訳で、そこだけは勘違いしないでほしいなと自分で嫌になるくらい早口で「嫌な顔してる」それも分かりきったうえで、愛の全てが唇と唇を重ねる行為だとは思わない。そう吐き出す。歯がまだ響いている。


「俺は首無しにはなれないから。ならここで偽物にすり替わるくらい見逃して、ねえ、しよう、新羅」
妙に目を離せないし電撃が落ちたように歯はビリビリと震えるし、なんだか本当に考えることをやめてしまった。世界だ、何でも許されるなら放棄もよし。さあしよう、また電撃を落とす。期限付きの恋は浴びたことが無いくらいに電撃的だった。

「勘違いしないでおいて、僕はセルティしか愛さないからね」
「それでもいいよ、首無しになんかなりたくない。キスもできないんじゃ、ね」


行為、限りない時間、即席の裏で加速して気付いたらもう終わりで諦めにおやすみ、キスをする。柔らかいそれは唇じゃない、ただのスポンジで、何故だろうか人間らしくない。ここで臨也の限界?体はそのまま
「いっちゃえば?」
飛び出したのと同じ感覚で臨也の首と体とが反ったのを見て、いやらしいなと思った。精子と彼女にごめんなさい。謝ったって

「意味が無いのに?」


何だってしていい世界だった。
天井を見ながら溜め息と謝る相手がもう一つだけ、出来てしまった



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