気管


ひゅうひゅうと空気の抜ける音がしたかと思えばそいつが臨也だった。過呼吸?とかそういう類だと思う。これも病気の内なんだろう。厄介な病気だよなあ、そう思いながら頭を掴む。
思ったより苦しそうなもので、珍しいことではあった。歪む顔自体は珍しくなくて苦痛に歪む顔が珍しい。かと言って助けてやろうかという慈悲深さも生憎持ち合わせてはいなかった。から、こいつに目線を合わせてみる。


「俺がっ、苦しがってるとこ見て、サカってんの?」
「うるっせ」

相変わらずの減らず口。こういう時くらい素直に苦しいだの助けろだの言やいいのに。だからと言って何もしねえけど。


「マジ変態、肉食獣だってサカんないよ、死体もどきなんかにさあ、分かんない。お前の、頭の、っなか」
「分かんねえままでいい、俺は化物っつうならそんままで、お前が死ぬまで眺めてやる」
「ほんと最ッ低、大嫌い、死ね、馬鹿」


あんまりにもひゅうひゅうと、そんでべらべらとうるさいから殺すつもりで口を塞いでやった。そのはずみだか何だか知らないけど同時に息を送ってしまったようで、それが何故だかこいつを生かしてやったみたいで不服だ。でもそれはつまり俺の息で生きていったわけだよなあ、今のお前は。感謝されるべきだよなあ、俺
げほ、ともう一発大きく咳き込んで息を吸う。赤くなった、それこそ兎のような目で睨みつけて、

「最悪。」
かすれた声で呟いた。こいつに死にたいなんてしょうもない願望があるなんて思いやしないけどもしかしたらあるのかもしれない。そんな事に気がついた。なにが最も悪いってんだ、手前自身だろうがよ。俺は悪くねえし、ましてや感謝されるべきだというのにこいつは。


「死ねたかも、しんないのに」

まだこんな事をぬかしやがるもんだからもう一発殺してやった。殺して、生かす。優しさなんか微塵もねえ。俺は言葉どおり、確かにこいつを殺してやっている。俺はこいつを生かしてやっていない。


こいつが勝手に、生きてしまうだけだ。



(死なせねえとばかりにこいつを死に追い込んでるはずの病気が邪魔してくる。原因はお前だろうに。小汚い支配欲なんかいっちょまえに持ちやがって、うぜえ。まずお前から殺してやろうか、だとか思ったりなんかしてしまっている俺とお前、どっちが本当にこいつを殺せるんだろうな?そんでどっちが本当に殺すつもりがあるんだろうな?どっちもどっち、俺お前)




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