炭酸


窓を開けて、風に溶けたような感覚になった。割り当てられた席は窓際のいちばん後ろ、午後の日差しは気持ちが良くてそのままつい眠ってしまっていて、いま何時だろうか、それを考えることですら面倒くさい位に俺は溶かされていた。

「臨也、帰るよ」
「あぁ、うん?新羅か」

新羅か、って。ひどいなあ、そう言ってるけどそんなに答えてなさそうだね。「僕はまだ残るけど」あ、そう?じゃあ俺も残ろっかな。え、駄目?何で?

「別に、と言いたいとこだけど理由はまあ無いでもないかな。静雄、さっき出て行ったよ。一緒に行けば?」
「あは、そう。うん。反吐が出るね、」
「素直じゃないね、君も」

新羅は困ったように笑って、誰と比べたのか分からないけど、気にはならない。どうだっていいから、気にしない。新羅が100円を投げて、これで何か飲み物でも買いなよ。そう言った。
「新羅、20円足りない。」

それくらい自分で出しなよ。これは多分、新羅なりの気遣いのようなもの。ひらひらと手を振って教室を出た。俺はというと鞄を持って20円あったかな、それだけ考えておいた。


少しだけ小走りで道を行く。鞄をがちゃがちゃと鳴らして、レンガみたいな赤茶色の道を踏みつけて金色をひとつ見つけた。赤にくすんだ金色は溶け込むように、俺の前に居た。

「やーシズちゃん、偶然だね」

何だお前、気の抜けた顔で気の抜けたことを言う。眠いの?そう聞けばああ、まあ、気の抜けた回答だね。

「飲む、これ」

差し出したのは新羅の100円と、それと俺の20円を合わせて買ったただのサイダー、緑と白のラベルパッケージ

「たぶん新羅が買ってくれた」
「たぶんて何だ、たぶんて」

どーでもいいじゃん。だから飲んじゃえば、言ってみるものだ、無言でペットボトルを掴んでごくりと飲む。中のサイダーもシズちゃんと同じで、光を抜けて、赤くくすんで流れていった。気泡が生まれて消えていく。ふと言いたくなるそれも生まれて消える一時の感情からなるものだと言えるものかもしれなかった。けどそれはただ隠れていただけなのかも、待っていただけなのかも。俺のなかから、ペットボトルから、蓋を開けられるそれを待っていたのかなあ、シズちゃん、ねえ聞いてよ、


「すきだよ」



隠していた何かがはじける感覚はサイダーのそれと同じで、炭酸が突き抜ける感覚を、嫌いになれなかった
透き通る、染み込む、あくまが言う、


飲んじゃえばいいんだって。




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