あいに浸かる


香水を買った。真っ赤な液体に真っ赤なハート形のボトル。ラブボトルなんて大層な名前だ。香りは何なのだろう、興味もないからすぐ気になんてならなくなる。「シズちゃんは嫌いかなあ」彼のことを考えてみる。

彼はニコチン中毒でいつでも煙草を吸っていた、そりゃあいつでもどこでもだ。事を終えた後も性懲りもなく吸うもんだから俺は俺の肺を労って煙草はやめろよ、と言った。でもそんな事聞くような奴じゃあないから今更改善出来るわけも無くて。ならあれだ、他に吸うものがあれば煙草を控えるんじゃないかと思ってさあ。


「しーずーちゃーん!」
路地裏に入った所を見計らって後ろからぶつかって行く。なるべく全速力で。案の定、彼はびっくりした様子だった。なんだお前、と言ってべりりと剥がされる。ここまではいつもと同じ。シズちゃんが顔をしかめる。あ、気付いた?気付いたかなあ?

「‥臨也、くっせえ」
「ひっど!シズちゃんそれひどい!」
「何付けてんだよ、馬鹿」

えっへへ、気になる?と問えば別にどうでもいい、なんて素っ気ない。まあ変わらないのはいいことだけど、もうちょっと位は興味持ったって良くない?まあどーでもいっか。「じゃーん」なんておどけて香水を見せた。真っ赤なハートの香水。これ付けたんだよ。

「シズちゃんがいつまで経っても煙草やめないから俺を吸わせてやろうと思って。どう?いい香りでしょ?」
甘ったるい甘ったるい香り。俺自身が包まれて、それをまたシズちゃんが包む。キスをする。何回も何回も絡みあう。シズちゃんの体に顔をうずめる。あ、なんかシズちゃんも同じ香りするなぁ、ちょっとだけど。

「気に入った?」
「別に」

笑って言えば別に、なんて言いながらシズちゃんはまた俺にキスをした。甘ったるい甘ったるい中のキス。香水に浸かっているみたいだった。ラブボトル、だったかな。香水の名前。あー今なんか、なんか。


「愛に浸かってるみたいだね」


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