逆光


(やっぱり、笑ってない)

折原臨也。学校1の美形。中1のころはどちらかというと可愛い路線だった気がしたんだけど今はまごうとなき美形と言える、眉目秀麗、容姿端麗。まさに彼に似合う言葉だな。
僕は常々思うのだけど、彼が笑ったところをまだ見たことがない。いや、今も数人に囲まれて端から見れば談笑しているんだろうけど、彼だけは笑っていない。僕にはそう見えた。
(あ、見てるの見られた?)
ちらりとこちらに一瞥をくれた彼だったが、ほんの一瞬見ただけでまたふいと顔を取り巻きの方へ向け直した。気のせいかな、多分何か虫でも目で追っただけだろう、そう思っとこう。そう願ったというのに、


「岸谷、新羅くんだよね?」

まさか彼から近付いてくるなんて、逃げようがないじゃないか。何の用だろう、まさか前見てたのを怒りにでも来たのかな?最悪の事態になりませんようにと願いつつ、「…まさか君が話かけてくれるなんて、びっくりだな」思ったことを口にした。彼は放課後に理科室に来てくれる?そう言い残してまた取り巻きの元へ戻っていった。

(さいっあくだよ…!)

僕は今日すこぶる運が悪いらしく、少しだけ、いや結構、神様を恨んでやった。


放課後、夕日で全体的に赤くぼやけたそこに彼は既に居て、蛇口を開けたり閉めたりしていた。
「遅れてごめんね」「いや、いいよ。誘ったのはこっちだし」

友好的であることを祈るしかない。殺されませんように!恨んだ神様に祈るのは何だか妙な気分になった。

「君に話したいことがあるんだ、岸谷新羅くん」
「何かな?特に面白い回答はできないけどそれで良ければ答えられる範囲で答えるよ」
うん、それはね、彼は蛇口をきゅっと閉じてやっぱり笑わずに言った。外から野球部だかサッカー部だかの声が入ってきていた。

「君、不思議なもの持ってるでしょ。」
「…何のことかな?」
「俺にも分かんないけど、君は違う気がするんだ。」
「まあ、あながち間違いではないけど」

あぁやっぱり!彼は目を輝かせて言った。「他の奴らとは違うと思ったんだ」ねえ、何を持ってるの?窓から差し込む日が眩しくて目を開けるのがはばかれる。目を閉じたら白いもやもやした残存が残って不快な気分になる。

「そうだね、君が本心を見せてくれたら教えていいかも」
ああぁ怒りませんように怒りませんように!神様に粘って祈る俺を尻目に彼は目を少し見開いてから口を開いた。「やっぱりね」

「君は他の奴らと違うよ。鋭いね」
「そうかな、自分では普通だと思ってるんだけど。それに感覚の鋭さで言えば君の方が上だろ?」
「いや、賞賛に値するよ。完璧だったと思ってたんだけどな、やっぱり君は違う!君みたいな人、好きだよ。良い関係を築けそうだ。そうだ、今日から君のこと新羅って呼んでいいかな?新羅」
「それはそれは、光栄だね。臨也」


僕の名前を呼んだ、それが彼の笑顔を初めて見た日だった。

それからと言うもの、彼は取り巻きより僕と過ごすのを優先するもんだから必然的に僕は恨めしそうな目で見られ僻まれる。知ったことじゃないし気にするまでもないよ、とは臨也にも言ったんだけど、そのたびに悔しそうな顔をしていた。その数日後に臨也は取り巻きに二、三言吐いていて、それから俺に対するいろいろなものは無くなった。何を言えばこんな簡単に事態が収束するのだろうと思ったけど、臨也は楽しそうだったからまあいっか。


「ねえ臨也」屋上は僕たちの特等席で、一般開放されてないところを臨也が何故か鍵を持っているから入れてる。臨也しかり、他の人たちは入れたこともないし入れたくも無いんだって。「何?」寝転がったまま臨也は答える。

「僕といて楽しい?」
「少なくとも、他の奴らよりは」

変なこと聞かないでよ、目ぇ覚めちゃったじゃん、とぶつぶつ文句を言って、眉間に皺が寄ってるのは何でだろうね。逆光だから見えにくかったけど、臨也が笑った。

「楽しいよ、新羅は特別」


眩しい中で見た曖昧な笑顔だったけど、心から笑ってた気がした。太陽の光はやっぱり眩しくて、目を伏せてしまった。少しだけ暖かい光だった。
友達のような、それとはまた違うようなものが加わったこの生ぬるい感覚が僕は案外、好きだよ。ねえ、臨也?



[*前] | [次#]
ページ:






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -