『今更だよ』


夢だと思う、全く知らない白い部屋。扉が奥にひとつ、俺から見たらただの箱であいにく俺の過ごす部屋はこんな色でも場所でもなく、ましてや俺以外の奴は居ないわけだ。つまりここは俺が生きるうえで見覚えもない夢だと思う。だからってなあ、なんで。

「何してんだよ」

臨也がここに居て、自分の腹へナイフを向けているんだろうか。「夢でくらい平和に過ごさせてくれよ、なあ」こっちを見ているあいつは多分、何も感じてない。俺の呟いたことに興味もないんだと思う。

『君が邪魔だから君が邪魔じゃないとこに行こうかなって。見せしめにね』

意味が分からない。邪魔じゃないとこ?ああつまりお前だけがどこかへ行く。腹に向けたナイフは自分を殺す為か、おい

『腹を切るってね、すごく痛いんだよ。すぐには死ねないんだ。じわじわ、ゆっくり痛みを受けながら死んでくんだ。怖いでしょ、すぐ死なせて貰えないんだ、意識のある中で自分が死んでいく恐怖を味わいながら最後まで痛くて痛くてたまんない。肝心の最後がいつ来るかも分かんないのに、酷いよね?』

こいつは相当頭がいかれやがったらしい。自分で言っといて楽しんで死のうとする、馬鹿は死んでも治んねえぞ。そう言ってやってるというのにこいつは、俺は飽きたんだよだなんてぬかしやがる。だから仕方なく近付いてやった。一息大きく吸って吐く。『近付かないでよ』うるせえお前の意向なんて関係ねーよ。嫌なら逃げろ、そうだろ?「俺の居ないとこにいって何になるんだよ」それこそ他に何もないだろ。

『じゃあね』

臨也の腹にナイフは根元まで入った。引き抜けば血が流れ出した。
『ね、最後だから抱き締めてみてよ』

やっぱりこいつは馬鹿だった。死んでも馬鹿は治らないっつったのにこいつは、ああもう。馬鹿だ、馬鹿。最高に馬鹿だ。大きく罵ってやる。俺の腕なんか持ってんなよ、抱き締めてやるから、「俺が邪魔なだけで何も死ぬこたねぇだろうがよ、なぁ臨也」1人になんなよ、そんなもん楽しかねぇだろうが馬鹿。馬鹿。今ならてめぇの欲しがる愛とやらでもくれてやる。だから、なぁ、

『愛してくれなくていいよ、迷惑。だって俺も君を、』


『愛してないから』


臨也の呼吸がもっともっと乱れていって、俺の服は元々黒いというのにさらに黒くしていって、腕を汚していって、綺麗だった箱の中にこぼしていって、それから臨也は死んでいった。愛を欲しがったそいつは結局愛を拒んで消えていった、直接的には残っているけど実質的には無くなった。
俺はなんなんだろう、気付かない内にこいつをただの存在ではない位置へ仕立て上げていたんだろうか、何でって俺はこいつの為に泣いてるんだよ。


『今更だよ』

箱の中で響いた気がした。
臨也の顔を見たけどやっぱりこいつは死んでいて、ああやっぱり気でしかなかったと思い知った。




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