『嘘ついたら針千本のーます』

自分に恐怖と殺意とそれから諸々を感じるというのはどれほどの屈辱だろう、不本意ながらそれを今俺も味わっているわけで。


夢というのは時としてリアルすぎるのが良くない。夢は夢であるはずなのに全く自身ではコントロールが出来ない、つまり俺もいまコントロールがきいてないから自分の過去の姿と対面しているわけだ。「君は過去の俺でいいのかな?」小さな黒髪の男の子に話かけた。その子はきれいな笑顔でああそうだよ、と言ったけれどその大人びた言動が年相応に見えなくて俺にはひどく憎たらしく感じた。そして恥ずかしいことに俺はこの過去の自身と幾度も会っていた。これもその幾度のうちの一部。

『嘘ついたら針千本飲ますって言ったでしょう』
「なんのことかさっぱりだね」

我ながら物騒な子だった。彼の言い分によると俺がシズちゃんを愛しているのに気がついたらしい。愛してないっていってんのにほんと、子供ってのはやっかいで恐ろしい存在だ。本当に針持ってやがるんだから、それどうするつもりなの?と聞いてもその子はただにっこり笑うだけだった

『これは俺の愛のしょうちょうなんだ』
また目を薄くして笑った。ひどく恐ろしい顔をしている。何故かそう思ってしまった。ただの笑顔に俺が翻弄されるというのも笑える話だけど、今は笑えるはずもなくってただ彼と対峙するので精一杯だった。彼の口が開いたと思えば『この針は俺の愛そのものだよ、針の先見てみなよ、人ばっかりでしょう』こんな事を言う。見せられた針の先には確かに人という文字が刻まれていた。もちろん目を凝らさなければみえなかったけど。

『でもおかしいんだ、人じゃない針があった。いま俺の手には999本の針がある。1本は仲間はずれだったんだ。平和島静雄。平和島静雄。平和島静雄。ねえ君は俺と約束したよね人を愛するって決めたよね。愛に混じっちゃいけないものなんだよ、平和島静雄なんてもの』

狂ってるなあ、狂ってる
俺はシズちゃんを愛しちゃいないのに

「君が愛してしまったんだろ」

これを聞いた俺自身は今にも泣きそうな目になって、そして俺の喉へ平和島静雄の針を突き立てた


夢はいきなり覚めるものだった。俺は夢とはいえ死を予感したというのにいざ目が冷めると汗もかいていないし寝違えたということもなくて、それどころか笑みを感じたくらいだった。どこか満足感と優越感。優越感はもしかしたら過去の自身には俺を殺せるわけもないという絶対の自信から来ていると思えた。そう感じたからだった。
満足感は、そう、俺がシズちゃんを愛してると第三者である者に言われたからだった。狂ってるなあ狂ってる。シズちゃんに愛されたい自分とシズちゃんを愛してる自分がいる。にくったらしい大っ嫌いなあいつにだ、狂ってなきゃ思いやしない。

(このままシズちゃんの針に刺されたいとか、)

狂ってないと自分の気持ちすら満足に出せない自分に嫌気がさした。愛に刺されたいとか、本当に馬鹿で馬鹿でしょうがない狂ってる、そう、狂ってるんだ。そう思うことに決めておかないとそれこそ死んでしまいそうだった。


『それならいっそ針せんぼん、飲んでみれば』

どこかであの子が言った気がした。
千の中にシズちゃんのがあればいいかな、愛が刺さって呼吸困難で死ぬなんて愛に殺されるみたいでなんかいいかも、なんて思ったけど、ああやっぱり俺は狂ってる。これが最後の自覚だった。




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