したごころ


何も待てと言われて待つような奴も居ないわけで、つまりそれは俺にも当てはまることなわけで。

動機が止まらない。そりゃそうか、ずっと走ってたから。参ったなあ、と思いつつ座り込む。路地裏というのは便利だ、見られる確率も減るし何より壁が冷たい。走り回って熱くなった体を休めるのによかった。かと言って危険が去るわけでもないので、一時限りの安息ではあるけど。
そもそも俺は追いかけっこなんてしたい訳なくて、ただあいつの情報を知りたいだけ。苦手だから知りたい、知らなくてはならない。シズちゃんという存在は自分にとって不利益な存在でしかなくて、ただその事実が気に食わないんだ。

思えば昔から変わらない。いつだって俺はあいつを気にしてたし、あいつも俺を気にしてた。普通に過ごせた日もまぁあるけど、そこそこ割合を喧嘩が占めてた。ああクソ、むかつくむかつく。
とか思ってればほらもう来たよ。なんなんだこいつは本当に、ほんっとにしつこい。まさかこんな狭い場所入ってくるなんて思わないから普通。

「やぁシズちゃん、まさかここまで追い掛けてくるなんて思わなかったよ」
「そりゃ思い違いだったなあ、生憎俺は今日暇なもんでね」ヤバいなあ、ヤバいかも
気を紛らわせないとなあ、そんなことを思いつつこの状況を楽しんでいる自分も相当ヤバいっちゃヤバいけど。「やだな、君、そんなに俺が好きなわけ?」こんなこと言っちゃう位にヤバいんだ。あーほらやっぱりその顔。そこまで俺が憎いかなぁ。


「だって貴重なはずの暇な時間をわざわざ俺に裂くわけでしょ?つまりそれは俺に愛されたい君の下心?恋は下心っていうから、君のは恋に程近い愛になりきれない、ほんとの下心ってわけさ!あっは、嫌気が差すね。」

自分でもやたら早口だと思った、けど思ったのはそれだけで、あとは別に何ともなかった。

「そりゃこっちの台詞だノミ虫、誰がてめえなんかによぉ、よし殺すいま殺すいま死ね」
「はは、相変わらずの口だねー。切り取ってやりたいよ。ってゆーかよくここ入ったね。きつくない?君じゃはまっちゃうかもね。でもはまるんならほら、あんな風にさ」

何もないとこを差す。やっぱりシズちゃんは馬鹿だから「あぁ?」って言って、俺の差した方向を見る。あー馬鹿馬鹿。あまりにもシズちゃんが鈍感で馬鹿で愛しくて、だから首を掴んでシズちゃんの口に俺の口をひっつけてあげた。俺たちには似合わない可愛い音がした。


「俺にもハマっちゃえばいーのに」

これは俺の下心かもしれない。でもそんなこと結局どうでも良くって、そんな気持ちに気づかないふりをしておいた、かわいそうなしたごころだった




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