お久しぶりです。お元気ですか。私は変わりありません。あの時から変わらずに、君に執着し続けています。君の横顔にあったニキビも、朝露のような制服の香りも、湿った部屋も、濡れた歯も、全て鮮明に思い出しては、心臓が苦しく痛みます。

あの日、十代くんは私に言いましたね。「お前はいつまでも、自分を16歳の少女だと思い込んでいるんだ」と。その言葉の、ひとつひとつの響きが、私にとって大切な音となり、耳をこだましています。

持て余した性への衝動をぶつけ合う私達の遊びは、いつしかエスカレートし、ただただお互いを傷つけ合うだけのものとなりました。

だなんて、思ってるのは十代くん、君だけですよ。私は未だに抜け出せていないのじゃなく、最初からずっと、本気で君を理解したかっただけです。今もそう、君が私をぶん殴って、泣きながらも海へ突き落とそうとしたあの日、あの日の続きが、ただただ流れている時間の中に身を置いているだけなのですから。


永遠の階段



名無しへ。メールをありがとう。まず言いたいのは、お前は本当に、気持ちが悪い。卒業して、お前と再会して、全て清算したあの日から、お前は何も変わらずに気持ち悪いままなんだな。それには本気でびっくりです。もう何年経っていると思っているんだ?俺はやっとお前との悪夢の日々を忘れかけていた頃でした。お前に付けられた根性焼きの痕は未だに消えません。何もかもが悪い思い出です。もう昔の俺に幻想を抱くのはやめてください。誰のためにもなりません。




十代くん、返信ありがとう。まさか返事をしてくれるとは思っていなかったから、意外でした。もう、何年も経っているわけで、尚且つ今まで連絡を取らずにいたことを、褒めてもらいたいくらいです。

私はあの日の私の続きのまま、ずっと存在しています。変わらずに、君に唾を吐きかけられることを、痛いくらいに胸を掴まれることを、尻を叩かれ、詰られることを望んでいます。君もそのはずです。

大丈夫、十代くんは何も変わっていませんよ。私のことをあんなに愛おしく、大切に苦しめて、痛めつけてくれるのは、十代くんただひとりです。

最近は、雑誌やテレビにも出ていないようですが、どこにいるんですか?いつまで私に罰を与え続ける気ですか?焦らすのも、もう終わりにしませんか?良い頃合いだと思います。



名無しへ。話が通じていないようなので呆れています。あの日、言ったよな?二度と俺の前に姿を現わすな、と。俺はそう命令したよな?都合よく忘れていないよな?お前が俺にしたことを。俺らのルールを二度も破ったのはお前だ。一度目の時、次は殺すって言っただろ。海に突き落としたくらいで済んで、感謝もないのか?反吐が出ます。お前の存在が害です。早く俺の存在を綺麗さっぱり忘れてください。お前に認識されていたくありません。




十代くん、またまた返信ありがとう。とっても嬉しいです。私のことを掻き乱した、あの十代くんの骨ばった指が、紡いでくれている文字のひとつひとつ、全てが有りえないほどに愛おしいです。私のために動かされる人差し指のことを思うと、幸せ過ぎて動悸がしてしまいます。

君の命令は、もちろんよく覚えていますよ。私は従順な下僕でしたから、命令、というその懐かしい言葉に、感銘を覚えました。

よく、裏山で裸になって、四つん這いにさせられ、様々なことを命令してくれましたよね。土にまみれた私の顔を愛おしそうに撫でてくれた君の姿も、今では夢の中の出来事のように思えてなりません。

ルールを破った私に、更なる罰を与えてくれるのかと思うと、どうしても我慢がなりませんでした。本当は理解してくれていますよね。私のことを理解してくれるのは君だけです。唯一の過ちは、私が君をよく理解出来ていなかったこと。それについては申し訳なさで胸がいっぱいです。こんな私にどうかまた、ご教示お願いしたいのです。

もちろん、次は絶対にルールを守ります。自分のマゾヒズムを他の男性に充してもらうこと、それを君に知られることで酷いお仕置きを妄想し、快感を得ようとすることは、今度こそ絶対にありません。私の命と引き換えにしても構いません。また十代くんに会いたいのです。一体どこにいるのですか?



名無しへ。俺は今泣いています。お前が何一つ理解してくれていなかったことを知って、悲しさと情けなさで涙を流しています。異常な程にバカすぎるお前が、お前の人生が不憫に思えてなりません。全ては俺の責任です。だから、お願いだから命令を聞いてください。まともに生きて、俺のことを忘れてください。もうメールもしてこないでください。これがお前がまともに、幸せになる、唯一の手段です。




まとも?幸せ?なんで勝手に私の正義を、幸福を、決めつけるのですか?涙を流すのは、ルール違反と言いましたよね。私の中の十代くんは涙なんか流しません。嘘をつかないでくださいね。

私が白痴だというのならば、どうか殴ってください。あの時のように、血走った恍惚の瞳で、どうぞ私を痛めつけてください。それだけが私の救いなのです。

十代くん、あなたの衝動は、私にしか受け止められないはずです。それは、君自身がよくわかっているはずですよね。

あれから代わりになる人を沢山探してきましたが、私を持て余す人ばかりでした。やはり君でなくてはダメなのです。

ねえ、お願いだからもう許してよ。また海に突き落として、もっと私をグチャグチャにしてよ。




差出人の電子メールアドレスが拒否されたため、メッセージを送信できませんでした。





私はメールアプリを閉じた。目を伏せた。今でも続いているだけなのだ。あの時間が今も続いている。同じ時間がここにある。

古傷を撫でると、隆起している。それを確認すれば、また呼吸ができる。あの頃と同じ私と、あの頃と同じ十代くんの、何も変わらぬ延長線上の時間があって、代謝を繰り返して新しい細胞となっていても、私の肉に芽吹いているシナプスは、十代くんの全てを、こんなにも覚えています。そのおかげで、私はまだ16歳でいられるはずだよね。

これでまた君の呪いの中で息ができる。




19/09/20
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