愛とは、無償のアガペーとしてしか成立しないことを知る。 それを持つのは遊城十代、ただひとりなの。 彼氏にフラれた腹いせに、死んでやろうって思った。くだらないことかも知れないけど、私には彼が必要だったし、それを拒否された今、残っているのは生きていたくない気持ちのそれだけだったの。 海辺で高波がやってくるのを待った。今日は海が荒れているから、ちょうどよかった。頑張って受験して入ることができたアカデミアの制服が、びしょ、びしょと濡れていく。 私は無価値だ。 「おーい名無し!お前も泳ぎに来たのか?」 声がした方を振り向くと、遊城、十代がいた。 私と遊城十代はそれほど仲が良いわけではなかったので、名前を知られていることに驚いてしまい、声が出なかった。 「着衣水泳は気持ちわりぃぞ。変な趣味してんのなぁ」 笑う十代。私は堪えきれなかった感情がついに溢れてしまい、涙を流してしまった。 「ご、ごめん、なんか変なこと言った?ごめん…」 「違うの…彼氏に振られて、死のうと思ってた」 遊城十代は口を噤んで、真剣な眼差しでこう言った。 「ほら、やっぱな。そうなるってわかってたよ」 「…はぁ?」 「あいつにお前は無理だって言ってんの。早く別れねぇならこんなにお前が傷ついたんだ」 何を知ったような口を、と思ったけれど、不思議と気持ちの昂りが静まっていく気がした。 遊城十代の言葉は、美しく清らかに私の耳に響いた。 「お前かわいそうな女じゃん。俺ってそういう女大好き」 「まぁ…かわいそうというか、無価値かな…」 「セックスしねえ?あ、間違えたわ。俺の女になれ」 高波がザッと二人の胸元を濡らした。水に濡れた遊城十代の裸の上半身は、ダビデの像のような完璧な美を放っているように思えた。 「な…で、同情?私、遊城くんのこと特に何も知らないのに」 「いーや、俺はぜーんぶ知ってんの。みんなのこともお前のことも」 「…」 不思議だけれど、嘘に聞こえなかった。私の精神が衰弱してるからだろうか。いや違う。この人は、特別な人なんだ。 「でも、やっとこうなったわけ。だからみんなの中で、お前を特別に愛してやるといってるのよ」 遊城十代は私の頬を撫で、涙を拭った。 「ずっとこの時を待ってた。お前が俺の特別になるのを」 神のみぞ知る15.12.08 |