少年ロリータ。我が罪、我が愛。
嗚呼、彼の蜂蜜の膝の、なんと麗しい事か!


私はゴホンと咳払いするふりをして、大きなドロップの唾を飲み込んだ。
今なお彼、遊城十代は、制服の赤い上着を身を捩って脱ぎ終えようとしている所だった。
その夢にまで見た光景を目の前にして私は、貞操を捨て去る直前の少女の様に、全ての責任を時間の流れに委ねてしまっている。実際問題、私は処女では無く、ましてや少女でも無かった。そして私はこの可憐な少年、遊城十代の教師であり、恋愛乃至性的対象として見られることは許せても、私がそういう目で見る事なぞ決してあってはならぬ最大最悪の禁忌なのである。

ここはリノリウムの床が冷たく構える我が教務室。空は燃えるような林檎色を今にも地平線に落とそうとしていた。
道徳?理性?そんなものがこの状況下においてどこにしまわれてるというのか!もし大嫌いなあの金髪おカマ教師の懐にあるというのなら、宝探しと名付けて股間をまさぐることだって今の私ならできるだろう。

しかし今、遊城十代の健康的な褐色をした首筋を前にして、そんなものはきっと役に立たない。自尊心なんて糞以下の存在に成り下がっていた。ああイエス、ブッダ、どうか私めの心を覗かないで下さい。私を無条件に愛し、祝福して欲しい。というかできるものならもう放っておいてくれ!

遊城十代!そんな湿った肌をさらけ出して、潤んだゼリーみたいな目で、先生を見てはいけません!

「せんせ、この部屋暑いって。絶対、絶対に暑い」

「確かに少し暑いかも知れないわ。しかし…でも…服を脱ぐほどじゃありませんよ」

「嘘だろ?じゃあ俺のここ、先生触って診てよ。すっげえ、熱いから」

「馬鹿を言うんじゃ…ありません」

愛しき少年は己の下腹部にしっとりと触れてから、うっとりとした視線をねっとりと寄越した。私の脳のどこか隅に残った平静が今フル活動してる様子だけど、残念ながら喉から這い出る声は震えていた。

「なんで?触ってよ。そしたら多分ずっと楽になるし気持ちい」

「遊城君、大人を…大人をからかうものじゃないのよ」

ハッ、大人!なんて馬鹿げた情けない響きだろう。遊城十代、ここまできて尚も建前と言う名の前戯をもたつかせる私にどうか幻滅しないで欲しい。神も仏もどうでもいい。君が私の熱をさらってくれるのなら何だってするから、どうかその和毛を纏う濡れた肌をしまわないで欲しい。

お遊びの過ぎる我が遊城十代は、いよいよ噎返る程の太陽の香りを匂わせながら、私の膝に乗ってきた。
彼はその体勢で白いズボンのベルトを緩め、少年のと比べれば凡そ醜い私の手をその中へとゆっくりゆっくり導いていくのだった。

「先生、俺って悪い子?」

絹草を選り分けた先にある硬いそれに辿り着いてしまった指先を、申し訳程度に引き戻そうとするが、十代の骨張った少年らしい手が腕を掴んでそれを許そうとはしない。こんな幸福って無い。

「なあ…先生」

少年の息は上がる。隆起した薔薇色の蕾が、薄い皮に密かに隠れた腹の骨が、人の温度を持つ下着が、目の前で生々しい程ギラギラと輝き、艶めきながら強引に誘っている。

「もうとっくに、寮に帰る時間を過ぎてるわよ…」

「まだ…もうちょっとだからさ」

そう言って頑な私を悟り、どうにか指だけで果ててしまおうと運動を急かす彼に、名付けがたい程の素晴らしい愛情を感じる。変態の私に負けないくらいの彼の痴態は非常に嬉しいものだった。きっかけこそ知らぬが、彼の熱い視線を淡く感じる日々が始まってから、こうなる事を描いてはかき消してきた私にとって、最高のディナーだ。シェフを呼んで私自身の肉を捧げたいくらいに。
嗚呼、そんな不埒な思考を巡らせている間にも、最後のチャイムの忌々しい音が飛び入る様に鳴り響いた。
それとほぼ同時にして、部屋の扉が叩かれると共に騒々しい呼び声がかかった。私はそれに息をのむほどハッとさせられた。どうやら少年の級友達が愛しい彼を連れ戻しに来たらしかった。十代の一連の自慰的運動が止んだ。
「あ、もうそんな時間かよ。ちぇ。また今度ね、先生。絶対の絶対だぜ」

人気者の少年は私に有無もいわさずに素早い手つきで身形を正し、けたたましく吠える友人達に答えて教務室を出て行った。最後に哀れなキスでもくれるかと思ったが、熱い瞬きが小惑に輝いただけで、醜い私を見事なまでに弄び残していったのだった。しかし彼の脳に悪気という二文字は無いのだろう。何故なら遊城十代は、私利私欲に生きる少年という生き物だから。

もう教育者とも呼べないこの下僕をどうか、君の高貴で生き長らえて欲しい。誠に勝手な話である。少年は少年であって、この先流れ続ける時間の量に見合った未来という希望があるのだ。希望。hope?あるだろうか、本当に。(教師というよりむしろ、大人として恥ずかしく思われるだろうか)
しかしまあ少年である彼自身には、少なくとも…いや…塵程に小さくとも、何か得体の知れぬ光が未来に見えているのだろう。私はそれを、決して、決して否定しない。

私の様な腐ったみたいな大人を相手にしてくれるのも、きっと今だけなのだから。(ありえないとは思うが、もし純粋な気持ちだったならば彼には悪いと思っている)
それに私は分かっているのだ。おおよそ全てを分かっている。
だからこそ我が教え子よ、汚れを纏わぬそのままの君でいて欲しいと願う愚かな私を、どうか許していただきたい。



哀れな遊城十代の渇いた匂いが、まだ指先に絡まっている。




090622
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