私の丘を、君がひとりで荒らしている。水は枯れ、草木は朽ち、生き物はみな去っていった。朝のこないこの丘の、君はとうとう神になった。 重たい前髪の奥に見える暗闇から、まる裸の私を見下ろして、私が動くのをじっと、弄ぶように待っている。 なあ、もうさ、この世界で赤いものはさ、俺とお前の血だけなんだよ。 この丘の空には星ひとつ伺えない。宇宙の群れからは、あまりにも離れすぎてしまった。 この丘をのせた星は、果てへ果てへと追いやられていく。これから起こるあらゆることを、誰も知らないし、覚えていないことになる。 お前はさ、ずっとさ、俺にこうして欲しかったんだよな。 ぞっと、全身の毛が逆立ち、身体中の穴から水分が漏れていく。 ひび割れた大地は、ひやりと暖かく、ぽかぽかと冷たい。 今からさ、ここでは俺が光だから。俺がいなきゃ、ここには新しいものはもう何も生まれないし、お前は何も見ることができないから。 だから、お前がさ、俺を捨てたら、あとはもう何もないんだからな。 君は私に一切触れない。それは君からの私への愛だ。 でもさ、そこまでして、生きてる意味って、なにかあるのかなあ。 なあ。 だって熱いものに触れてしまうと、私はたちまち溶けて消えてしまうから。 こんなになってまで、俺が欲しかったのか。 吹きすさぶ風が埃を運んで、君の髪を靡かせながら絡みついた。 その時微かに見えた瞳からは、赤い涙が垂れていた。 お前はさ、これでもう、新しく、大丈夫だよな。そろそろ俺はさ、またお前が迷ったり、俺を探したりしないように、赤い星になるから。 俺は、お前の赤が、好きだよ。 青く黒い空に、赤い星が灯ると、君の形は風になり消えた。 私はここでまた、赤い子宮から、君の雨を受精して、何かを生み出さなければならない。 その生き物はきっと、また同じ赤い血を持って生まれて、私のように、君みたいな誰かを求め、薄暗い孤独に血を流さねばならないのだろうか。 それなら本当に、もう何も、生まれなければいいんじゃないの。 溶けてもいいから、一度でも君に、触れたいと思うのは罪なのか。 もう私は既に、君を見つけてしまったのに。 danae.130607 |