遊城くんが私を好きだなんて嘘に決まっていた。私が明日香さんといるといつも間に入ってくるくせに、私の発言は無視して明日香さんと話をし続ける。初めて会った時もせっかく自己紹介をしたのに彼は少し沈黙してから私を無視して他の子と握手をしていた。とにかく私は遊城くんという人から無視をされ続けていた。最初は何か気に食わないことをしてしまったのだろうかと思って気を使っていたけれど相変わらず沈黙と真顔しか返って来ないので私もそのうち腹が立って諦めた。だって何かをした記憶がないもの。会話すらしたことないのだから当たり前だ。そんなこんなで私のデュエルアカデミアの生活に遊城くんの影はなかった。遊城くんは相変わらず普通に楽しそうにしているし私も深く考えずに毎日を過ごしていた。

だから明日香さんからそんな話を聞いた日の午後、私はレッドと合同の体育をバックレるか非常に悩んでいた。更衣室でジャージに着替えながらも気分は重くて仕方なかったし、第一私は遊城くんのことがずっとずっと嫌いだったのだ。だって私を無視し続けたから。その無視の仕方も好きな子にするようなものじゃなくって本当にいじめかと思ったし悩んだし悲しかった。だから今更そんなこと言われたって、信じられるはずないじゃない!

「名無しさん?」

やはり保健室で仮病しようと決めた時、更衣室のドアノブがガチャガチャと回された。男の子の声だった。私はまさか!と思いその場で硬直した。しかしドアノブは音を立てて執拗に周り続ける。

「だ、れ?」
「え?ああ、俺だけど。」
「誰?まさか…遊城、くん?」
「ハハッわかる?スゲー嬉しいんだけど。てか開けてよココ。」
「な、何か、用?」
「うんうん、スゲー急用だからさ。早く開けてってば。」

遊城くんと名乗る声は苛立った風で、なんだか荒い息遣いも聞こえたので私はそのドアの鍵を開けるはずがなかった。なんか、怖い。でも誰に助けを呼べるわけでもなく、更衣室には私一人だった。なんとかしてこの人を追い払わなければ…。

あ、?

ガチャ、と解錠する音が聞こえると、閉まっていたはずのドアはすぅーっと開いて、そこにはもちろん遊城くんが、目を爛々と光らせながら立っていた。私は身体が震えて失禁しかけた。

「やっーと、開けてくれた。」
「わ、私じゃない!」
「別に照れなくていいのに。」

遊城くんが痛そうにしてる指先から血が流れていた。まさか、爪で無理やりこじ開けたの?!この人、頭おかしい…。

「わた、私保健室行くからそこどいてくれる?」
「やーだよ。せっかく二人きりになれたし。今日はね、記念日だから。二人の。」
「そんなの知らない!頭大丈夫?私たち今初めて会話したし、意味わかんないから本当。」
「ずっと待ってたんだぜ。だって初めて名無しさんを見た時、瞬時に射精しそうになったんだ。だから名無しさんと話そうとしても無理だった。目見るだけでイッちゃうし。だから今もーイキまくりーアハハハ。」
「…?!」

絶句した。遊城くんの股間はよくみるとジャージが盛り上がりシミになっていた。

「気持ち、わるい。」
「名無しのためにずっと我慢してきたんだから仕方ないだろ?やばい、今初めて名前呼び捨てしちゃった。俺たちって運命だよね。」
「本当に意味わからないからやめて…。」

遊城くんの話によるとこうだった。遊城くんは私のことを一目みた時からずっと好きで好きで好きで好きで仕方なかった。私と目が合うだけで声を聞くだけで射精をしてしまうほどだった。

「俺、処女のにおいがわかるんだ。」

毎日名無しさんのナプキンとおりものシートをかいで確認してたんだよ。ちゃんと俺のために処女でいるかどーか。俺もちゃんと童貞守ったよ。俺スゲー純粋にお前のこと好きだし。健気でしょ?俺って。でも裏切ったよね?昨日、オベリスクブルーのブサイクチンカス野郎とセックスしてたよね?君。なぁ。あいつお前の大好きな明日香の男だろ?そんなことしてよかったの?ねえ?ねえ?ねえ?ねえ?俺の気持ち踏みにじりやがって。だから俺も昨晩明日香を犯したよ。俺のチンポもう童貞じゃないよ。悲しいよ。どうしたらいいの名無しさん?俺たち前世でもきっと結ばれなかったのに今世でも結ばれないの?こういうの何回繰り返させる気?ふ、アッ…はっ、俺、こんなに真剣なのに。どうしてお前はすぐ他のやつの事見たりするんだよ。あっ、アアッ。はあっ。マジ許せねえ、もうちょっとだったのに。一緒に冬の星に行って赤い猫を飼うのに。そしたらレズビアンの子供を産んで幸せに暮らすんじゃん。あーーーマジ許せねえ。クソビッチが。あぁぁぁああぁあアアッ、アアッ。俺のもんにならねえなら殺してやる。


あ、犯されている。強打した頭と締められた首とリズミカルに打たれる下半身への衝撃と子宮の痛みに長い長い独り言のせいで遠のく意識の中私が脳裏に見たのは平行世界での遊城くんとの日々だった。赤いマニキュアとか白い太陽とか血塗れのバスタブとか似合わない口紅とかフェルメールの絵とかベニスのビーチとかジンジャーエールの瓶とか夕焼けの十字架とか、熟れた、苺とか、黄金の、雨、とか、百合、の、花、と、か。

(ああ、私、また失敗したんだ。)

デジャヴ
130301

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