十代の真っ赤な背中は無限に広がってるみたいだなって思うの。 まんまる夕焼けを眺めながら、チョコレートラズベリーパイを囓るのに夢中だった。 十代のほねほねとした、蜂蜜色の指先が、私のパイを横取りするの。 「甘いものばっか食べてると、もっと頭が悪くなるぜ」 十代は笑ったけれど私にとっては笑い事じゃ済まされないのよ。 私はこうやって糖分摂ってなきゃ、すぐイライラして、首のところが苦しくなるんだもん。だから私は悪くないわ。 十代は、私に対して、中途半端に優しい人だ。私の事を何も知らないから、平然と傷つけることができるね。 私のこの、オレンジみたいな心臓に。 毎日、悪夢がやってくる。十代の形をしたジンジャーマンクッキーが、私に食べられてしまうだとか、そんな夢。 朝起きれば、喉には引っ掻いた傷痕があるし。 ああ、近々、私か十代かのどちちかが死ぬのだなあ、と、夢見心地に考えた。 いつもみたいに私が、甘いホイップクリームカップケーキに夢中になってると、悪夢は正夢となって目の前に現われた。十代は寂しそうな面持ちで、ホイップを指ですくって舐めた。 「私のケーキ」 「知ってたか?もうすぐ世界は終わるんだ」 「それってあなたの妄想?」 「夢であるならばまだ良かったさ」 ひっそりと、私の額を撫でた、彼の、彼の指先は震えてた。 重たい眼球をぐらぐらさせて、十代はまんまるのお日様に溶けていった。 今きっと、彼は溶けて混ざってる。夕焼け色のストロベリージャムとなり、きらめくアラザンの密かな悲しみをまとって。 だって私はあなたのこと、なんにも知らないんだもん。 終わらなさそうな悲しみなら私が食べてあげたのに。 あ。十代の背中はどこまで続いているのだろう。きっと宇宙の果てとか、不思議の国にまで、広がってるに決まってる。 そうじゃなきゃ許さないよ。私のラズベリーパイ、食べたクセに。 |