自室の窓から四角い陽光が囁いた。彼に告げよ、と。白の無機質なテーブルと椅子に向かい合わせに座り、太陽は、遊城君の方だけに陽を注いだ。こうやっていつも、遊城君だけが特別なのを思い知らされて、嫌いで、嫌いで仕方なくて、でもその中には純粋の憧れや、触れてみたいという禁忌が混じった、そのような「嫌い」だった。

 部屋の怠惰に、陽光が、また囁くのだ。告げよ。まるで神の声であるかの様に聴こえるのだ。善か悪かも解らない。解らないからこうして、彼に初めて話しかけ部屋に導いたにも関わらず何もせずに、ただ遊城君は、苺を入れた透明の瓶を弄びながら、白い壁にうつった陽光が苺水を突き抜けてつくりあげたピンク色の影を掴もうと、テーブルに頭を預けながら両の手で苺水を持て余した。

「なあ、お前、おれに何のようがある訳。」

 傾けながら退屈そうに遊んだ瓶をコトリと机に正し、遊城君は顔を上げ私を見据えた。いや、見据えたんじゃない。彼のまなざしが元から強いだけで、私はそうやっていつも彼を神聖化させているだけなのだ。ああ、四角い陽光は遊城君にしか及ばない。いっそ、殺して。好きなんだ、訳もわからない程に、好きで、辛くて、苦しいのだよ。ねえ。

「私、名無しっていうの。その苺、食べても良いよ。」

 遊城君は私の瞳をジッと見てから、すぐさま瓶に指を突っ込み苺をほお張った。なんで遊城君の髪、こんな綺麗なのかな。サラっとしていて、スルっとしていて、それでも芯のあって、根強い、豊かな、透き通る髪が輝く。膨れた頬の和毛を、オレンジの光が煌かせた。こんなに近くに遊城君がいるのに、まるで彫刻を見物している様な気分になり、もどかしかった。私と遊城君との住む世界は、まるで別で、きっと触れても幽霊のように透き通ってしまうんではないか、と、苺をむしゃむしゃ言わせる彼を眺めながら想った。そう、つい先程彼が、白い壁に投影されたピンク色の影を掴もうとした様に・・・

あ、ああ、違う!そうじゃない!私と遊城君は、違う。まるで別世界だ、触れて汚してはならない、私と遊城君が一致することなど絶対にありえないの、だからこそ惹かれてしまったのだ!

「私お願いがあるのです。」

「なんですかー。」

 ブルーのカーテンが白い壁に映える風景。


「今すぐ部屋を出て行って。私の前から消えてくれ。」 遊城君は苺を丁度食べ終わった様だった。ごっそさん、と言葉を残して、彼は金色のドアノブの向こうに姿を消した。


 四角く切り取られた窓からの陽光は相も変わらず彼のいた席を照らしている。彼が最後、んだよ、そっちが呼び出したくせに、頭おかしんじゃねーの、などと、言っていた気がするが、それについてはあまり関心は無かった。あまりにも事実で正論であったからだ。

 苺がなくなった。ピンク色の水だけを残した瓶が目の前にある風景。しかしかすかながらも、突き抜ける陽射しは瓶を通って壁を薄いピンクに染め上げていた。私はその部分に手をのばし、指を握った。

囁いたのではない、既に私が思っていたのだ。死ぬほど愛しているから、だから消えて欲しかっただけだ。


「・・・自己防衛と似ている。」




いちご水
/110118
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -