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 私は硬直しました。髪から伝う水滴が私の小さな乳房を滑らかに滑り床に落ちました。すっかり冷え切った体が鏡に映りました。貧相でした。泣きはらした目と青ざめた唇。私は悪ですから。

「そっか。」
としか言えません。
「でも十代は名無しをとったの。私は遊びだったの…そんな男と名無しは…いやよ…それもいや…けれどあなたにだけは嘘つきたくないの。だって私達親友でしょう?」
親友?
「名無し嫌だったんでしょ?いつも私の影に隠れて引き立て役で、私と十代の仲見せつけられて、私だったら耐えられない、好きな男の子が他の子と仲良くしてるの嫌よ、嫌よ…。」
私は目の前が真っ暗になった気がしました。十代君が無なら、明日香は善であり、純でした。そして私は、罪悪でした。私が全て、違っていました。

「ねえ名無し、私あなたの口から聞きたい。私が十代の事愛してるの知ってて十代に接近したの?それとも全く気がつかなかった?知らなかった?私に言う気は微塵もなかった?私あなたが十代を崇拝してるの知ってるのよ、口振りでわかるわよ。ねえどんな手使ってあの浜辺に行けたの?」
私は何も言えません。
「私だって十代と…セックスだってして…したのに…浜辺…なんで連れてくれなかったの…行きたかったよ…私も生きたかったわよ…。」

私は息が苦しくなりました。苦しくて、全て諦めました。
言葉はそんなに重要ではありませんでした。

「明日香の秘密全部?」
「そうよ。名無しも隠さないで、全部教えなさい。」
明日香の言葉のどこかに隠されたトゲが私の中にずたずた刺さってきました。私は懺悔します。
「私は明日香が好きでした。親友と思ったことは一度もありませんでした。出会ってから徐々にに惹かれて好きになりました。愛していました。明日香との茶会は生きがいだったし怖い話大会をするのも明日香と一緒に眠る口実を作るためでした。デュエル哲学の後の茶会に遅れるのは休憩室でオナニーしてたからです。明日香、あなたを想ってしました。こないだのシーツも、明日香への気持ちが高まってついオナニーしてさまって汚しました。私はあなたが好きです。あなたを性的対象に見ています。ごめんね。愛してるの。ごめんね。ごめんなさい、気持ち悪いと思ったでしょ、でももう嘘つけないと思ったの。だから全部言ったの。私にとって十代君は、こんな間違いだらけの私を認めてもらえるかもっていう唯一の救いだったの。」


明日香は呆然としてました。私は簡単な服をまとって部屋を飛び出しました。すっかり陽は暮れていました。死のうと思って今日十代君と会った浜辺の岩場までやってきました。藍色の海が静かに揺れ、星の輝く空を地平線の向こうから伸びるサーチライトが照らしていました。月は丸く明るかったです。その明かりを頼りに岩場に腰掛けました。この海をずっとどこまでも行けば私は許されるかな。十代君がしていたように足を伸ばして投げ出しました。すると後ろに腕をぐいと強く引っ張られて仰天して振り向くと、十代君が、様々な光を受けて闇から浮かび上がってきました。

「十代君、なんでいるの。」
「お前はなんで泣いてるんだ。」
「失恋した。」
「まじで?じゃあ俺も今失恋しました。」
「…どういう意味だろう。」
「俺名無しが好きだよ。愛してる。」

不思議と違和感を感じませんでした。今の私には何故かそれが当たり前の事のように思えたのです。

「私は十代君好きじゃないし愛してないよ。」
「俺は全部知ってるけどな。神様だし。」
「え?」
「明日香が言ってたんだ。お前が俺を崇拝してるって。それで俺は気がついた。」
泣き止めよ、と十代君の指が私の頬を拭いました。触れたのは三度目です。暗闇の中どうして泣いてるのがわかるのと聞きたかったけど心地よかったのでやめにしました。
「私、明日香を親友と思ったことなんて一度もない、明日香愛してた、セックスしたかった。」
「短絡的だなァ。」
「じ…十代君に言われたくない…かも。」
「十代でいいぜ。」

私の瞼にキスを落としてくれました。何故このタイミングなのかは問わないことにします。


「なあ、お前にはわかっているだろ。」
「何…。十代が同性愛者ってこと?」
「そ。俺ゲイだけど名無しとセックスする夢いっぱい見るじゃん。だから現実でもイケるかもとか思って明日香としたんだよなーでもなんか違かった。明日香は名無しじゃない。」
「それ…ひどいよ。」
「何でだ?明日香がしたいって言ったんだぜ。」
「謝ってね。明日香に。全力で。」
「お前死ぬんじゃねえの?死んだら関係なくねぇ?」
「…なんでそういうのわかるの?ていうか待って、"見るじゃん"って何?なんで私十代の夢知ってる前提なの?」
「何言ってんだ。お前も見てるだろ。」あ、








「お前死んでも俺になるだけだし。でもひとつになったらセックスできねーやーオナったら二倍気持ちいのかな。」
「ひとつになるの?」
「そう。逆にならないと思うのか?」
「…なんかわかってきた。でもね、聞いて。」
「おう、知ってる。今聞いてほしいって思ったこと。」

なんて不思議で、でも当然に思えて、懐かしささえ感じてしまうのでしょう。

「赦して欲しかった、私だけがみんなと違うから怖かった、本当は愛していたの、明日香を、あの純粋で綺麗な子を愛していたの、でも私は悪だから、自分の中で沢山明日香を汚した。許されないから…赦して欲しくって、でも駄目だから…。」
「駄目じゃないよ。お前のこと全部俺が赦してる。安心しろよ。お前は間違いだらけだけど、俺にとってお前はどうひっくりかえったって正義だ。」
「これって…何?」
さあ。愛じゃねえの。


彼が無だと言うのなら、きっと私が有なのです。(無は全てを受け入れる。)今夜は夜空とオーロラの夢を見ました。あの夢以外を見るのは数年ぶりでした。あの夢は私達を引き寄せる為のシグナルだったのです。そしてあの夜、私達はやっと巡り会えました。私と十代は魂の双子になったのです。明日香にそれを言ったら、笑われるでしょうか。またあの素敵な笑顔で、笑って欲しいのです。




101116


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