彼が島を出るときいてから、小さな墓を作りました。南の浜辺の、潮の届かない岩陰に、砂を盛って十字を刺しました。
 砂の中にはお守りを埋めました。彼が昔贈ってくれた、神社の合格祈願のものです。私と彼とは先輩後輩の関係にありました。私は彼を追って学園を受験したのです。
 毎日、午後四時になると浜に来ます。この時間がちょうど一番、太陽がうつくしいのです。昼は雲の切れ間から差す光の屑が輝きながら燃えています。しかし私は、地平線に沈む晩成の太陽に祈るのです。山でとった、名も無い白い花もそえます。

 今日の朝食は大好きなものばかりだったし、授業だって卒業式の準備で、無いにも等しかったのです。何でもないいつもの日常なのに、今日は何故か太陽が一層きれいに見えてしまって、私はしずかに、しずかに涙を流しました。
 まぶしい光が十字をふちどり、まるで燃えているようでした。十代はもうここには来ないんだと気づいて、悔しくて涙がとまりませんでした。この浜でたくさん、好きと言ってもらいました。愛してると囁いてくれました。その時私は彼だけのものでした。間違いなくあの気だるく甘いひと時は、存在していたはずなのに、今は跡形も無く、波が砂をさらうだけなのです。

「こんなとこでなぁにしてんだ、名無し。最近見ないと思ってたら。」

 夕陽の後光を放つ十代がそこにいました。でもそれは私の知っている十代じゃないの。
私の十代は、あれから遠くへいってしまった。私とこの抜け殻だけ置いて、行ってしまった。そんなことで無性に泣きたくなってしまうのだ。十代はいるけれど、欲しい十代は違う、違うの。

「明日の卒業デュエル、見に来てくれるよな。俺の晴れ舞台。」
「そうだね。最後だし、行ってあげるよ。」
「最後なんかじゃないさ。」
「・・・言うと思った。」

世界が赤く染まっていく。十代がとても遠くに、そして近くに見える。何もかわっていないのに、この顔も、仕草も、甘ずっぱい匂いも全部、あの十代のままなのに、中身だけがずっぽり抜けたみたいな、でもそれは悪ではなくて、余計な血なんか一滴もなくて、完全無欠で、正義で、いじわるで、あ、何も変ってない。?

「何で。目閉じろよ。」
「キスするの?最後の?」
「は?だから何で最後になるんだよ。」

 力強い腕に抱きとめられる。面白可笑しく私の唇を啄ばむ。何で笑っていられるんだろう。そ知らぬふりでいられるの?いつまで私を騙すつもり?私が見抜けないとでも思ってるの?私じゃ駄目なの?何が足りないの?何をすればよかった?何を与えてあげられた?何を望んでたの?どうして何も言ってくれなかったの?何で、何で私を愛してるって言ったの?何でなのよ。

「私だって十代みたいになりたかったよ!」

 赤い唇を噛み切ると悪い血が零れた。お守りを踏んだ足をどける。十字を折る。
歪んだ太陽は沈んでいる。

「もうやめてよ・・・。」


 精一杯吐いた言葉は、彼のけたたましい笑い声に押し潰されました。


歪んだ太陽/100812
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