ああ、まだ夢から覚めない。私は自己中心的で、利己的に物事を考える。だから覚醒とは、遠くの彼方に霞んで見える朧月のような、そんなものだった。

私が大型水槽に写る十代の姿に見入っていると、彼はそれ気づいて微笑む。「なんだよ」小さい魚が群を成して青い水槽を駆けていった。十代は今その魚を目で追っていたのだろうか。

「こんな幸せがあっていいのかと思って」

十代を見上げる。久々に会った彼は身長が随分伸び、体格もしっかりしていた。アカデミア時代は私と同じくらいだったのに、なんていう駄々をこねるのは精神の中だけに留めておく。私だって少しは成長したのだ。ああ、気持ちが悪いね。

長い指先が示すのはマンボウ。十代は心底楽しそうにそれを目で追いかけた。それに釣られて歩みはじめるので、暗い水族館の廊下を、私達は進んでゆく。

まさに今、十代の時間は全部私のもの。何も考える必要は無い。動物に回帰して、セックスの時のような快楽に身を投じれば良い。十代の隣というのはとても心地よい。それだけで番っているような気にさせられる。十代の顔をもう一度見上げた。この愛が永久に私のものだったらいい。そうすれば私は他に何も要らないし、何も望まない、自己愛すら捨ててみせるのに。でも、そんなありえないことを願うこと自体が自己中心的で、利己的で、もっともナンセンスなんだろう。未だにマンボウを追いかける十代が、無言で私にそう語りかけている気がして、勝手に辛くなった。

十代は私の隣に留まらない。それって既に、答えが出てるってことじゃないか。わかっているのに、精神のどこかは、それを認めず彼を物にすることばかりを考える。短絡的な思考回路。私はアメーバだ。

「名無し見ろよ、あの魚きもちわりぃぜ。ハハ」
「愛してる」
「・・・え?」

十代の手を握った。薄暗い照明と私達と魚、この空間にはそれしか存在しなかった。休日の人ごみの騒音など、私には関係が無かった。十代の手はガサガサしている。私は組み替えて何度も強く握る。目線はマンボウを追ったまま、私は手を握ることしかできない。

十代は分かっているんだ。こんな私を知ってるから何も言わないんだ。私の愛に気づいているんだ。それなのに彼は、彼は、とっても自分が好きな人だから。

十代は決して自分を裏切ることはしないんだろうな。そんな複雑なものなしでも、私は十代を愛すのに。十代が十代という魂である限り、私は十代がどんなになってしまったって、愛すから、私の中で安心して、眠っていればいいのよ。

「ホテルいくかよ」
「・・・うん」

彼を拘束していられるタイムリミットが迫る。明日の昼にはまた日本を飛び立ってしまう。それまでの残された時間で、どれだけ彼を満喫できるか、今の私にはそれが重要になってくる。二人は手をつなぎながら繁華街に消えてゆく。端から見れば恋人同士だね。私はとっても嬉しいよ。

これは諦めかしら、決断かしら。そんなこと考えないで、ただ真っ直ぐに愛していたいだけなのに。


ああ、まだ夢から覚めないよ。

100326
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