るも何も、私と彼との間に新しく生まれるものは無く、黒い、愛の屍骸の様なものが、ぽつぽつと落ちて腐っている様な、そんな、醜い世界だった。恋だろうか?違う。それでは愛?いや、それも違うね。

「あ。キス、しないで。」

彼が主食なら私は副食。彼が主役なら私は脇役。彼が主体なら私は客体。彼が神で、私が子。ああ、きっと一番しっくりくるのがこれだ。
十代は教祖と似ている。私にとっては十代というその人が、宗教のそれと何ら変りない。勝手に神様にしている事、少し仄めかしてみても、十代はいつもの如く華の様に笑う。

「なんでだよ。」

「あ、さっき、ご飯食べたばっかりだから・・・。」

純潔?少し違う。ならば悪?いや、彼のは必要悪だ。とても小さい。ああ、みんなは知らない、輝かしい人が隣にいるって事を!しかし、それは果たして愚かだろうか。むしろ幸せなんじゃないのか。彼の華の笑顔を、明るい闇の洗礼を、何も知らずに受けられるのだから。知らぬが仏、ということだ。

ならば誰が一体、ジーザスを愛すのか。人を癒し導く彼を、誰が守り、誰が理解するのか。それは私、私はその役目が欲しい。

十代はお構い無しに唇を押し付けてくる。そんな時私は、ああこれからも嫌われたくはないな、と強く思う。だから、彼の唇が私の知らない誰かの、透明色のグロスで濡れていても、何も言わない。黙って汚いキスをする。十代は私が気づいている事も、故意に黙っている事も、知っていながらキスをしたのだな。それが十代という人だ。私は、十代の恋人なんかでは無いし。

この寮には、二人以外誰もいない。外は既に暗い。雨音が遠くに聞こえた。ベッドに横たわって、まだキスをしている。ああ、この後もしたいけど、私は決して強請らない。十代が何度も角度を変えたり、私の腹を触ったりと、やたらもぞもぞとするので、シーツが乱れた。私はベッドの木枠を掴んで、震えるほどの幸せに耐えた。こういう時私は、これが永遠で、真実で、全てであればいいなと考えるけれど、きっと十代は違うのだ。
口内を犯されているさなか、そっと目を開いてみると、十代の見開いた双眸がそこにあって、ドキリとした。何か悪いことをしたような気がして居た堪れなくなったが、目を逸らす事ができない。見つめ合いながら尚も舌を動かす。とび色の瞳は、真っ直ぐにどこか遠くを見ている。少なくとも私を見てはいない。私は寄り目になっている気がして恥ずかしくなったのと、謎の罪悪感から、静かに目蓋を閉じた。

十代は異世界から帰って来て変った。誰もがそう言う、私もそう思う。でも皆が感じているそれと、私のこれとは、何処かが違っている。十代の中に異質な何かがあるような、なんだかそんな感じ。非常に曖昧なので、聞くに聞けないし、聞いたとして、何にもならない気がする。元の十代はどこか遠くにいってしまって、もう元には戻らない。そのように思う。元々近い人で無かった十代が、とうとう手の届かないところにいってしまった気がした。とても辛いので自己完結させておく。この事をいくら考えても悲しいだけで、何にもならない。

「知らない女の子が昇降口にいて、好きって言われた。」

さらりと言いのけた。このぬるぬるは、その子のなのだね。

「それで、俺はホモだって言った。そしたらビックリしてた。」

「アハハ。それは、ビックリするね。」

「素敵だって言われちまった。・・・どう思う?」

十代は笑っていなくて、怒っても、泣いてもない。何でもないような声で、とても深刻だと言いたげな顔で、私を見た。この話をしたくない私は、少し間をおいてから彼の下半身に触れた。

「十代がホモなんて、有り得ないのにね。」

彼のベルトを外すのに焦ってしまって上手くいかない。

「自分でやる。」

悲しいのは、知らない女の子と十代がキスをした事でも、その女の子が十代の本質に気づいていた事でもない。決して無い。十代が私としかキスしちゃいけないなんて決まりは無いし、彼が遊び人で誰彼構わずちょっかい出す事も今に始まった話ではない。

「十代は膣が好きでしょ?」

体勢を反転させる。彼の物を己の中に導く。好きでしょ?と再び問いただす。十代は答えない。終わりたくない、終わりたくない、終わりたくないので、必死に腰を振るのだが、十代はアア、だとかイイ、だとかそんなことしか口にしない。ああ、あなたの罪を、私が無かったことにしてあげるって、これだけ教えてるのに。あの青髪の男は、十代なんか見てないよ、一生見ないよ、目をくれもしないだろう。言ってあげるのは酷だから、十代が気づかないといけないのに。ああ、想像するだけで苛苛としてしまう。

「アハアハ、そういえばヨハン、彼女ができたらしいよ。」

そんなことを言ってあげても、体は嘘をつかないでしょ。十代は早くそれに気づくべきだ。その為なら、私は自分が犠牲になったって構わないだろう。

十代は、哀しそうに眉根を寄せて目を瞑り、それきり何も言わなくなった。

ねえ、ほら、ソドムは壊滅したのだよ。








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