私のものになれば良かったのに。なんて思うのは、野暮なのかしら。例えばよく、夜中に脱け出して、街を散歩したよね。十代が隣にいると、星空の儚い瞬きや、空気の澄んだ味も、関係なくなった。それらは全て、私達の夜の付属品だった。

私の汚い世界で、十代だけが綺麗だった。できるのならば、あの日に帰りたい。十代が綺麗だってことを、世界中で、私しか知らなかった時。



「デュエルアカデミアを受験するなんて、私、き…聞いてない」

久し振りに、下校時刻が重なった私達は、いつかみたいに肩を並べ、夕闇を歩いた。十代は、私の学校のとは違った詰め襟を、だらしなく着ている。


「だって、言ってねぇもの」

十代が飄々と言った。汚れたスニーカーの足は、道端に転がる石ころを蹴る。路肩に咲く蒲公英を跨ぐ。私は是非、その石ころや蒲公英になりたい、と願う。君の、黄金の足元に終える、その命。何も知らずに死ねる、幸福。

「私本当は、一緒の中学に行きたかったんだよ。だからせめて…高校は、地元だと思ってたのに…」

「お前もアカデミア受けりゃ良いじゃん」

ああ、まさに、その通りだ。十代はいつも正論を述べる。馬鹿な私に術をくれた。普通のふりしていれば、ずっと隣にいれたのに、振り払ってきたのは、私ではないのか?なんて、愚か。私はとても自分勝手。守りたいのに、私を知って欲しいと願ってる。下らぬお祈りばかりを。

あ。夕陽が墜ちる。垣根の椿はいつの日も、変わらなかったのに。十代は変化してゆく。どんどん大きく、どんどん綺麗になってゆく。他の人類は、私達を引き裂く事ばかりを、考えてるように思えた。病気なら、薬を処方して欲しい。それで苦しくなくなるのなら、まだ良かった。

「アカデミアって…全寮制なんでしょう」

「そうだぜ。あぁ〜楽しみだなぁ、毎日デュエル三昧」

「…落ちてしまえばいいよ」

「…馬鹿、言うなよ」

十代の声色は真剣だった。世界の終わりが、近づいている気がしてるのは、気のせいだといいのに。
十代は、この地球上にある、どんな悲しみや苦しみも、知らなくていいよ。私の事だけ、好きでいればいいよ。ムカつくから、石ころを奪って、溝にシュートした。いつしか、陽は、暮れている。

「私、心配してるのよ」

「大丈夫だよ。何があっても俺は逃げ帰ったりしない」

そういう意味じゃ、ないんだけどなぁ。むしろ逃げて来てよ。十代には、私しかいないんだから。君が、私以外の人間と、幸せになって良いはずが、ないでしょう。あぁ、みんな、死んでしまえばいいのに。

「何もないさ。約束しただろ。俺にはお前だけだって」


さよならをした。十代は、遠ざかってゆく。今すぐにでも振り返って、駆け戻って抱きしめて、愛してるって、言ってよ。しかし詰め襟は、闇に溶けていった。

あぁ、私はあんなちんけな約束、信じるほどに、馬鹿に見えたのかしら。

いつか誰かが必ず、十代の心のドアをノックする。白い花嫁姿で、百合のブーケを持って。

ねぇ、だめだよ。そんな冷たい子は、いけないよ。


これを愛と呼べたのならなんて美しいんだろうか。

全部くたばってしまえ。



わかれ

090927


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