三沢の両手首や指の生傷は痛々しく、その骨ばった手から滴り落ちる鮮血なんかむしろ美しいくらいだった。彼は赤く染まった一輪の薔薇を差し出した。

「あげるよ。きれいだろう?名無し君。」
「うん、ありがとう。ねえ血ィ出てるよ。」
「そりゃあ、急いだからなあ。少々見苦しいが気にしないでくれ。」
「急ぐって何を?」
「ああ。だって、君が急に俺の部屋に来ると言うもんだから。手元に赤い薔薇が無くて、白い薔薇を代用したんだ。それで許してくれるか?」

元は白かったらしい一輪の薔薇は三沢の血で真っ赤に染まっていた。こんなお話、どこかで読んだ気がする。受け取った薔薇の茎にはまだ血が滴っていた。私の手を弱弱しく侵食する。

「あまり喜んでもらえなかったようだな。君はいつもそうさ・・・やらせるだけやらせておいて・・・。」
「え?違う、嬉しいです。部屋に飾る。ありがとう。」
「え?そうか?それは君の為に手をボロボロにした甲斐があったよ。」

三沢はねっとりとした視線を私に向けて、目が合うと微笑した。私は、彼の肌色が酷く青白い事に気が付いた。血を出しすぎたのだろう、今にぶっ倒れる・・・だけどそんな事はちっとも無くて、彼は熱心に私を見つめる。

「さあ、名無し君は赤の女王、俺はトランプの兵だ。」
「意味が分からないんだけども・・・。」
「おや、キャロルを読んだこと無いのか?赤の女王はトランプの兵に赤い薔薇を植えるよう申し付けたのだが、彼らは間違って白い薔薇を植えてしまったんだ。それで、急いで赤いペンキを用いて白い薔薇を染めたんだ。」
「私はてっきり、ナイチンゲールと薔薇のほうだと思ってた。」
「あれは、まあ、近いものだが、俺はあの小鳥ほど愚かでは無いさ。確かに棘で自身を傷つけて血を絞っている時なんて快感に近いものを覚えたが、君が他の男を思って泣いていて、その為なんかにわざわざ赤い薔薇をプレゼントしない。」
「そう・・・。」
「ま、そんな事はどうでもいいんだ。ちょっとした演出さ。何故なら俺はトランプでもウグイスでも無いのだし。」

三沢は机の上の花瓶の中から白い薔薇を一輪取り、その赤い指で優しく撫でるのでした。

ブラッド
    ローズ


090825(070814)
※リテイク

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