十代に甘く抱かれる夢を見た。そこではラベンダーの空に砂糖の雲が浮かんでいた。ホワイトチョコレートの木に寄り添って二人は永遠を誓った。ストロベリーガーデンの祝福の鈴の音。それは昔よく聴いていたあの歌と似ていた。目が醒めて私は泣いた。




目覚めた場所が浴室で驚いた。扉は開け放たれシャワーカーテンも全開だった。タイルに切り取られた小窓からは外界の音がする。とても青い。すぐそこに落ちていた携帯を開くとAM11:00と示されていてその時やっと左腕の傷に気がついた。どうりで体が重いわけだ。
まるで血管に沿うかのように引かれた一本の長い傷は肘の窪み辺りまで直線に引かれ、ぱっくりと割れていて奇妙だった。もっと深く引けば脈打つ血管を見れるのだろうか。視線を下に移すと床のタイルは所々血痕で赤かった。多分俺の血だと思った。俺は泣いた。昨夜の喧嘩の事を思い出して泣いた。

名無しの愛はアガペーだった。無償の無垢の愛だった。世界で名無しはマリアだった。名無しは非道いから人々に平等の愛をくれてやらなくって俺しか愛していなかった。でもそれは確かにアガペーだったのだ。

立ち上がって白いバスタブを覗く。中は空で栓が抜かれてあった。昨夜確かに、湯を張ったはずだった。

それで俺は名無しが帰ってきた事を知った。俺は浴室を勢いよく飛び出してリビングのドアを押し開けた。誰もいない。廊下に戻って玄関を確認したら見慣れた名無しのサンダルが脱ぎ捨てられてあったので俺はまた泣いた。名無しが帰ってきてくれたのだ。俺達これからまた学生時代みたいにやれるんだ。
とびきりの笑顔を浮かべながら寝室のドアを開いた俺は、俺は、俺は…俺は。俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺おれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれおれはおれはお前がこんなに好きなのにお前しか愛してないのにせっかくお前が生まれたのにお前の子宮が一番なのになのになのになんでわかってくれなかったんだよねえもうお前を殴らないって約束したじゃないかこの世界で私しか十代を愛せないって言ったのはお前じゃないか俺もう勝手にいなくならないしヨハンとセックスもしないし明日香の家にもいかないよ約束したじゃん俺お前に約束したじゃんお前が泣くからしたんじゃんなんでだよふざけんじゃねえよ!!!!!!意味わからねえよ!!!!!!お前がマリアじゃねえのかよ!!!!!!!!!ねえ名無し、名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無し名無しねえ名無し。

お前はどうしても俺を嫌いになりたかったのか。いっそあのまま殺してくれれば良かったよ。お前がいない世界は世界のかたちをしていないよ。息が詰まって死にそうだ。まだお前と遊んでいたかった。俺はもうこんなに優しいのに。これからは昔みたいにやれたのに。名無しがいないから死にたかったのに。その皮肉はどう捉えれば一番正しいのだ?次はいつ夢を見させてくれるんだ。

名無しは白いベッドに横たわっており、両手は胸に刺さったナイフに添えられていた。俺が自決を謀ろうとしたナイフで名無しはわざわざ死を選んだ。俺を生かしたくせに自分は死んだ。名無しの俺に対しての憎しみをひしひしと脳に感じた。

名無しをぼんやりと見下ろしてから、胸のナイフを抜いてやる。血が乳房を伝い既に真っ赤なシーツに吸い込まれる。

俺が誰であっても愛してくれると言ったのは確かにお前だったはず。

ナイフを自身の左腕に添える。名無しが好きだった歌をうろ覚えに口ずさんで世界の終焉を祝福する。早くこの酸素の無い空間から抜け出してお前のところへ行かねばならない。
震える右腕を押さえた。最初から死ぬ気なんて無かったんだ。







十代に甘く抱かれる夢を見た。そこではラベンダーの空に砂糖の雲が浮かんでいた。ホワイトチョコレートの木に寄り添って二人は永遠を誓った。ストロベリーガーデンの祝福の鈴の音。それは昔よく聴いていたあの歌と似ていた。目が醒めて私は泣いた。




この世界はあまりにも甘く祝福されすぎた。







 
  
   

090804


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