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若、筆頭、と少しばかり柄の悪い男たちが兄や父の周りを囲む。
私が動き回れるようになって気付いたことだ。伊達家は、所謂ヤのつく稼業だったのである。
確かに、前世の伊達も大概可笑しかったと記憶している。戦国時代であるはずなのに、軍内ではルー大柴の如く英語が横行し、馬にはハンドルとマフラーが取り付けられ、前時代的なヤンキーのような髪型が流行っていた。
純和風のお屋敷なのは評価するところだが、それがこの職業のためだったなんて、と知った時は頭を抱えた。道理で車が黒塗りの外車だったり、家の中を闊歩する見知らぬ男たちが血気盛んだったり、極道映画宜しくな単語が頭上で飛び交ったりしていたわけである。
平和なはずの現代で、全く平和じゃない家に生まれついてしまった。

加えて、ここでも家督争いというものが起こると予想した。事実、また兄は右目を失う大病を患った時、私の母はお前が次期当主かもしれないなと零したし、父親もこればかりは、と私を抱きしめたりしたものだ。部下たちもそう思っていたに違いない。兄がいない屋敷の中で、不自然によいしょされたのは後にも先にもあの時だけだ。と思う。先はわからない。
けれど、兄は回復した。右目を失って、母に少しの間避けられてはいたけれど、今は戦国の時代ではない。科学が進歩した今では、病気になるメカニズムだってある程度は理解できるものなのだ。母と兄は和解した。次期当主は兄で決まったも同然だ。
これだけは神に感謝をしてもいい。予想は外れたが、家督争いだけはしなくて済んだ。

さて、では私の立ち位置はどうなるだろう。前世では母の後ろ盾があり、それなりに大事にされてきた私だったけれど、この家ではそうはいかない。家督争いが収まったにも関わらず、周りから絶大な人気を誇る、次期当主である男を邪険にしている人間だ。周りから良い印象など持たれてはいまい。浮いた存在であることも自覚している。
けれども結局、自分の立ち位置だけは、まだ不明瞭であった。

「う、えぇ……っ」

綺麗に磨かれた個室のトイレに向かって、胃の中のものを吐き出す。
兄から向けられる視線に耐えられなかった。
私に笑いかける兄が気持ち悪い。
私に声を掛けるという行動をとる兄が気持ち悪い。
記憶と合致しない光景が、脳に違和感を与えて気持ちが悪い。

ああ、早く戻らなければ。なるべく、家の者や両親には心配をかけたくないのだ。