1 ぐ、と喉の奥が鳴った。 息を吐く。吸おうとするが上手く肺が膨らまない。呼吸は次第に浅くなり、体内の酸素は外に出て行くばかり。 箸が手から滑り落ちる。机の上で汁椀と共に跳ね、箸は床へと落ちていった。味噌汁が飛び散り、視界が歪む。 ずるりと身体が椅子の背もたれからずれた。 そのまま重力に従って床へと導かれ、片方だけに体重のかかった椅子は、上に乗った物と共に大きく傾く。 机を掴もうとするが、腕に力が上手く入らず、机の上の定食に突っ込みひっくり返すだけだった。 一度、世界が大きく弾んだ。 お客さん、親しい店の店員の、慌てた声。 走ってくる足元が見える。大丈夫ですか。お客さん、しっかり。 打ち付けられたはずの身体から痛みは感じられない。 あっという悲鳴が聞こえた。 じわりと視界の端に赤い水が広がっていく。 瞼が重い。店員の声が曇っていく。 息ができなくて苦しいのに、気持ちはずいぶんと穏やかだった。 [しおり/戻る] |