「山田くん、おはよう!」 奴はにこにこと笑ってそう言い放った。 「……苗字先生、アタシは霧隠シュラです」 「山田くんでしょ?」 「霧隠シュラ」 「山田くん」 「き、り、が、く、れ!」 そう、こいつはアタシを常に山田と呼ぶ。 最初の方は仕方ないと思っていた。何せ二ヶ月山田を名乗っていたのだ。慣れないだけだと。 だけど違った。こいつは最初からアタシを本名で呼ぶ気なんてないんだ。 ほら、よく見てみろ、にこにこ笑ってるなんて嘘だ。どう見たって奴の笑顔の擬音語はにやにやだろう。 「良いじゃないっすかぁ、俺は好きだな、山田くん」 「好きとか嫌いとかそういう問題じゃないだろ!」 人の名前だぞ! 叫んでも奴はにやにやと笑うだけ。 面白がっているってことぐらいわかる。だけどアタシにだって譲りたくないものはあるのだ。 名前なんかは最たる物だ。特に奴に対しては。一度くらいアタシの名前読んでみやがれ、なんていった、もう意地のようなものだけれど。 「山田くん、山田くん。そんなに目を吊り上げてたら男は逃げてくだけっすよ」 「余計なお世話だ!」 ひひひ、なんて無邪気そうな笑顔に騙されかけるが、忘れるものか。奴は邪気の塊だ! ← |