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名前を呼ばれて振り向いた。

「ああ、良かった。勝呂くん、でいいよね」
「はい」

目に入ったのは背の高い男。祓魔塾の苗字と呼ばれる講師だった。
彼の授業は毎回祓魔に関係ないことばかりで、彼自身も自分の授業は息抜きと称している。
真面目にエクソシズムを学びに来ている自分がアホらしく思えてくるくらいに、彼は自分のペースを崩さなかった。
……この間この人の任務について行ったけれど、とても信じられるような戦い方をしていなかった。
あんな戦い方は、多分、誰にだってできる。

「ちょっと頼まれてくれないかな」
「……はあ」

きっと、目の前に自分が居たから声をかけたのだろうとは思うけれど、何故自分に、という面倒な感情が沸き上がる。
その感情が顔に出てしまったらしく、彼の眉尻が少しばかり下がる。ふわりとした、笑顔ではあったけれど。
ずきりと、頭が少し痛んだ。

「……なにを、したらええんですか」

結局そう発してしまう。
その言葉を聞き、ぱっと彼はいつもより明るい笑顔をこぼした。
なんや、年下を相手にとるような気分になる。

「聖書をね、一緒に探してほしいんだ」
「……は、え?」

聖書?

「ほら、あの小さいやつ……」

この間彼の任務について行った時に見た、あのハンディタイプの聖書のことらしい。
一体なんでそんなもんをなくしたんや、とは聞かないで置いた。きっともっと頭が痛くなるに決まっている。
そんなことよりも。前々から、彼と悪魔の戦闘を見てから、気になることがあったのだ。

「先生はなんで聖書を使わはるんですか? 暗記すればええと思いますけど……」
「仕方ないんだよ、俺は君みたいな秀才じゃないんだ」

へらっと彼は笑う。感情の読み取れない、綺麗な笑顔だ。