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わっと誰かが悲鳴をあげる。素早くその声の方を向き、悪魔に照準を合わせて引き金を引く。
苗字さんの任務に付き添って、一匹だけだと油断していた結果だった。

「大丈夫ですか!?」
「……はい……」
「魔法陣の外には出ないでくださいね」

魔障を受けてないのを確認して、ふうと息を吐く。
まさか一般人が召喚した悪魔が、下級悪魔を従えた中級の悪魔であると誰が予想しただろうか。
塾生全員を集めてその周りに簡易であるが魔法陣を描いていたのはそのためかと、今更ながらに彼の行動の理由を知る。
森の中の川の傍の河原。そこが今いる場所だった。ここに悪魔が潜んでいるのだという。
当の彼はといえば、魔法陣の外でじっと仁王立ちをしているのだった。
危ないのではないかと思うのだが、悪魔たちは彼を攻撃しようとはしない。

「苗字先生は大丈夫なんやろか……」
「大丈夫や、あの人上一級祓魔師や言うとったやんか」

塾生たちが不安気に彼を見、その視線に気付いたらしい苗字さんは、にこりと笑って手を振った。
途端茂みから現れた、きっと今回のターゲットである人型の悪魔が、彼に向かってその腕を振り下ろした。
何やってんだあの人は!
直ぐに駆け寄ろうとして、足を踏み出すが、ぐっと押し留まる。
ここから出てしまえば、まだ訓練生である塾生を守るということが難しくなるのだ。
そうなれば危機に瀕した兄が魔剣を抜くであろう確率は格段に跳ね上がる。それだけは、避けなければ。

「やあっと来やがったな……」

殴られ、しかしその場に踏み止まった苗字さんは、いつもと違った凶悪な笑みを浮かべる。
まるでこちら側と対立する悪役だ。

「さあ、命請いの時間だ」

詠唱の始まりとともに彼の右腕が空を切る。悪魔の悲鳴が耳を突いた。
まさか、まさか!
唖然とする塾生達を尻目に、彼はウエストポーチからあのペットボトルを取り出した。一旦詠唱を止めると片手でキャップを弾き、ぐっと口に水を含んで、悪魔に向かって吹き掛ける。
彼の右手に光るのは、金色に光るナックルダスターだ。きっと細工を施してあるのだろうが、それにしたって。

「騎士の称号も竜騎士の称号も持っているのに……」

再度始まった詠唱のせいか、よろめく悪魔は再度拳を叩き込まれ、どすんと地に背を付けてしまった。
それを見てすかさず彼はペットボトルを逆さにし、ばしゃばしゃと聖水を惜しみ無く悪魔の上に流し、空になったペットボトルを軽く放り投げた。喚き散らす悪魔の腹であろう場所に逃げないよう左足を振り下ろす。……外道だ……。
左手がまたウエストポーチを探る。
取り出したのは携帯用の小さな聖書。
ぺらぺらとナックルダスターのついた右手でページをめくり、その手が止まると彼の詠唱も止まる。
十字を切る。悪魔に対してもう一回。彼はすうっと息を吸い込み、にやりとあくどい笑みを浮かべながら、しかし凛とした声で聖書を読みはじめた。