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「えーっと、今回はうっかり任務を入れてしまって、じゃあついでに見学でもしてもらおうかと画策しております。もしものための付き添いに、奥村先生をお呼びしてるんで、えー、よろしくお願いします?」

ジャケットの袖を折り、腰にウエストポーチだけをつけた彼は、確かに身軽ではあるけれど、これから行く場所は悪魔のいる場所であるはずなのだ。
あまりにも軽装備ではないのだろうか。

「苗字さん」
「はい?」
「……大丈夫なんですか、そんなに少ない荷物で……」
「大丈夫っすよォ、任務の時もだいたいこんなもんすから!」

にかっと笑って彼はそう応えたが、一体どうやって任務をこなすというのだろう。
彼は手騎士の称号を持っていないことからもわかるように、その方面の才能はない。
そして、彼のどこにも銃火器も刀剣の影も見られない。
まさか詠唱だけで倒すというのだろうか。そこまで思考を巡らせて、それはないとその考えを追いやった。

「奥村先生は、奥村くんの心配だけしてりゃ良いんです」

そうだ。そのために自分は呼ばれたのだ。兄の監視は自分の役目。
祓魔塾の講師は全員が兄の正体を知っているから、こういった事態には必ず同行するよう手配してもらっている。
それにしても、彼は何を考えているのだろう。

「えー、今回の任務は、割と特殊な例になります……こらァ奥村くんうろちょろしない。退魔……じゃねえや、祓魔であることに変わりはないんだけど……えーつまり……」

兄さん!
行儀良く苗字さんの話を聞いている他の塾生と違って、兄はきょろきょろと辺りを見回し、もぞもぞと落ち着きがない。
仕方なしに兄さんの首根っこを引っつかんで、塾生の後ろへ移動した。

「つまり、一般人が誤って召喚した悪魔をぶっ倒せっつー任務っすね」

簡素にそう纏めた彼は、しゃがみ込んでごそごそと何かを始めたようだ。

「……苗字さん?」
「ちょうど良いから簡単な聖水の作り方でもついでに学んでもらおうかと」

いやあ材料しか持ってないんすよね、なんて言う彼に軽い眩暈を覚える。
これが本当に上一級祓魔師なのだろうか。

「いいですかァー、用意するのは飲める程度の綺麗な水と、少量の塩。もっと簡単なのは十字架一つでできるんで覚えといても損はないですね」

彼がウエストポーチから取り出したのは口の広い小さなミネラルウォーターのペットボトル。
家庭でよく使う塩の小瓶と、小さな十字架が二つだった。

「まァ簡易精製なんで上級悪魔には効き目が期待できないんだけども、そこら辺の下級悪魔にはばっちり効くんで……」

彼は十字架に祈りを捧げて十字を切り、水に対しても同じように祈りを捧げて十字を切る。

「一番簡単なのは水に十字架を投入して聖水を作る方法ね。十字架二つを入れて祈りを省略することも可能なんで、十字架は携帯することをお勧めします」

せっせと作業を熟していく彼の手際は良く、頻繁に聖水を作っているのだということが伺える。
水に十字架が沈み、塩にもまた水や十字架と同じ動作を繰り返す。
水に塩を入れたところで先程とは違う祈りを捧げ、再度十字を切った。

「はい、完成ー」

今回の聖水の製造法は彼なりのものらしく、本来塩を使う場合は十字架を必要としないらしい。
余談として水に入れた十字架が錆びやすいため、錆びないよう手入れを欠かさずにと言われ、少しばかり頬が緩んだ。