今日は本部から一人、祓魔師が来ると、家は朝から大騒ぎだった。 とある家の女児が悪魔に憑かれたと報告を受けたのが始まりであったが、その女児の家は敬謙なキリスト教徒、対してここ一帯にいる祓魔師は仏教徒ばかり。それでは対処が出来ないというので、日本支部に祓魔師の派遣を要請したのだ。 そして、今、目の前に座るのが今回派遣された本部勤務をしている上級祓魔師、苗字名前さんだ。 「遅れて申し訳ありません」 深々と頭を下げる苗字さんは、申し訳なさそうにふわりと笑った。 ああ、派遣されたのはこの人だったのかと、いくらかの肩の力を抜く。 「ああ、時間のことは大丈夫です。……お久しぶりです、先輩」 「うん、久しぶり」 日本は無宗教大国だ。様々にある宗教に対応し、そのひとつに精通する人物は数多といえど、日本にいる祓魔師となれば数は格段に減ってしまう。 今回の家はキリスト教徒、日本支部にもその宗派の方々はいるはずなのだが、出払っているかなにかで寄越せず、日本人で本部勤務の彼なら間違いはないと、お偉方は判断したのだろう。 こうして彼はここにいるのだ。 「……では、今回の件を説明します」 早速とばかりに仕事の話を切り出した。向こうとこちらの時差は八時間、疲れているのだろうが、こちらとしてもあまり時間をかけたくはないのだ。 今自分が彼に宛てがわれているのもその都合で、ああ、こちらの支部にも一人くらい、西洋宗教に詳しい人物を据えておくべきかと今更思案してみる。 一通りの説明を終えて、彼の表情を見る。眉間にしわの寄った、少し難しい表情。 「……憑かれているっていうのは、確実なんだね?」 「はい。うちの祓魔師も所長もそこは何遍も念入りに確認してます」 「そうか」 彼は表情を和らげて、じゃあ行こうかと立ち上がった。 ← |