ベンチに座る、背の高い男を見つけた。確か、あれは兄の言っていた。 「苗字」 呟いた声が聞こえたらしく振り向いた彼は、兄が話していた通り、傷だらけだった。 「ん、む?」 口に頬張った水色のそれは、日の光りできらきらと輝いている。 「……たしか、ファウストくんちの小鬼くん」 水色は口から離れて彼の右手へ。先端からぽたぽた水滴が滴り落ちて、地面を濡らす。 「……アイス」 「ああ、食べる?」 食べかけでよければ、と差し出されたそれに、勢い良く噛み付いた。さっと口の中に涼やかな甘さが広がっていく。 「ほら、座んな」 たんたん、彼が隣の開いたスペースを叩く。頷いて隣にお邪魔した。 「小鬼くんはアイス好きなの。すっげー物欲しそうにしてたけど……」 こくりと再度頷く。アイスも好きだけれど、お菓子であればたいてい好きだ。 黙々とアイスを食べていると、頭に重みを感じて視線を上げた。頭を撫でられているのだ。 「ファウストくんは良いなァ……小鬼くんみたいなかわいい弟がいて」 あれ。違う。そう思ってふるりと頭を振った。彼の顔を覗けば、怪訝そうな表情。アイスはもう食べ終えてしまって、それだけになってしまった棒を口から吐き出す。 「小鬼ではありません。アマイモンです」 「……口の周り、べったべただなァ」 生憎タオル持ってきてねえんだ、なんて言われてしまった。 彼の目がすっと細められる。 「そうか、小鬼くんが下位王子か」 彼は先程名を教えてやったというのに、それで呼ぶ気はないようで、再度ボクを小鬼と呼ぶ。 「……小鬼くん、俺が何だか知ってる?」 「はい」 そうかあ、彼は笑んだまま、深く息を吐いた。からんとアイスの棒が地面を叩く。 ← |