彼はゆったりと柔らかに微笑んで、わかりましたと頷いた。 「でも俺、教鞭なんて振るったこともないですし、教員免許だって持ってないっすよ」 「ええ、構いません。こちらでなんとかいたしますので。そして、あくまで本来の目的は奥村燐です。……では貴方が授業を担当していただくかは後日に」 「はい」 彼は再度頷き、それではと早々に席を立とうとする。 その動きはこの私にあまり関わらないようにしようとする動きにも見える。 なにか私の噂でも耳にしていたのだろう。またはこちらに来るときになにか言われたか。何しろ私もまた悪魔の身であるのだから、何かしらの助言は受けているはずだ。 しかしそうなら残念だ。面白い男だと思っているというのに。 そんな思いから彼を引き止め、コーヒーをすすめてみる。 「へあ、あ、えー……じゃあ、貰います」 そうして、戸惑いの色を映した彼の表情も、コーヒーを煎れ終えた頃には元の笑顔に戻っていた。 ポーカーフェイスの上手いことだ。いや、切り替えが上手いというべきだろうか。流石は悪魔と対峙してきた祓魔師。 しかし、そうでなければ困るのだ。主に悪魔との関係は嘘のつき合い、化かし合いが鍵を握る。自身のこと、本当のことをべらべらと喋り、悪魔に弱みを握られるなど言語道断。悪魔にさあ殺してくれと言っているようなものである。 「……引き止めた理由を聞いても?」 「私は貴方に興味を持ちました」 彼は露骨に嫌そうな表情をつくった。眉を顰めたまま、コーヒーを一口啜って、大きくため息を一つ吐き出す。 「……あんた、向こうの上司によく似てます」 それはそれは嫌そうに、彼はそう呟いた。 ← |